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荒川河畔の「原住民」⑥

ホームレスたちと河川敷で寿司パーティー、そして「お母さん」と感動の再会をした

2024年10月2日(水)18時25分
文・写真:趙海成

その時、近くに住んでいるもう一人のホームレス仲間、森山さん(仮名)も来た。彼と会うのは2回目だったが、2回会っても、この人は相変わらず元気がなくて少し眠たそうに見えた。

彼は酒が好きで、あまり話は好きではないが、たまに簡単な中国語を口にした。むかし中華料理店でアルバイトをしていたときに中国人の同僚から学んだという。

桂さんによると、森山さんは普段、新聞を読むのが好きで、国内外のニュースに関心を持っているという。中国で最近起こったことについて話し合うときは、確かに、彼も1つや2つの意見を述べた。しかし、いま何で生計を立てているのかといった個人的なことを聞くと、彼は話を避けるのだった。

私たちは寿司や各種軽食、酒類を食卓に並べ、乾杯をしようとしたところ、鉄道橋の向こうからまた自転車に乗った人が来た。彼は、もともとこちらのホームレスだったらしい。私たちは彼にパーティーの仲間入りをしてもらった。

最後に来たこの人は、彼自身が語った話によると、ホームレスになる前は宅配会社の貨物運転手だった。仕事に疲れて辞め、今はバーでアルバイトをしているという。

彼は話すのが好きで、子供の頃のことも話した。アメリカで生まれ、父は園芸師で、当時アメリカで金持ちのために庭を手入れしていたという。彼が生まれて間もなく、父が病気になったため、一家は日本に帰国した。

彼が1歳半の時、父が病気で亡くなり、それからは母親が彼と姉を育てた。

私は彼に言った。「あなたのお母さんはとても強くて、あなたをすごく愛して、あなたのためにたくさんのことを尽くしたんだよ」

ここまで読んで、皆さんはきっと気になっているだろう。なぜ私がこの53歳のホームレスの母親を知っているのか、と。

そう、私はこの8カ月前に彼のお母さんと知り合っていた。数日前には彼女と一緒に酒を飲んで、人生のあれこれを話し合ったばかりだ。

思い浮かぶ孤独な姿......彼女に長靴を買ってあげよう

私が彼の母親と知り合った経緯については、この連載ルポの第5話の「50年前にシングルマザーとなった女性は、いま荒川のホームレス。彼女が森でしていたことは?」ですでに述べた。

8カ月前にあたる7月のある日、荒川沿いの小さな森を通ると、茂みの隙間から、腰を曲げて何かをしている老婦人の姿が見えた。しばらくして、私はまたそこを通って、再び彼女が同じ行動をしているのを見た。私はとても好奇心があって、木の茂みを隔てて老婦人と話を始めた。

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