最新記事
少子化

世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンからの「切り札」導入も露呈した「根深い問題」とは?

Making Up for Fewer Babies

2024年9月3日(火)13時39分
キム・ヘユン(米国韓国経済研究所 非常勤フェロー)
噴水で遊ぶ子供

家事サービス提供で女性の育児負担が減るというのが政府の論理だが KIM JAE-HWANーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<出生率低下を食い止めるべく、ソウルで外国人家事労働者の受け入れを開始。共働き家庭や一人親家庭での育児負担軽減を目指したが、数々の疑問の声が──>

試験的事業として、外国人家事労働者を受け入れる──韓国の首都ソウルの呉世勲(オ・セフン)市長が、そんな提案をしたのは2年前のことだ。

外国人労働者の「手頃な」サービスを提供して韓国人女性の育児の負担を軽減し、少子化に歯止めをかけるのが目的で、国内の家事労働者の減少や急速な高齢化に対応する狙いもあった。


シンガポールや香港の政策を参考に、韓国政府とソウル市が進める同事業は本格始動したばかり。家事労働者の国家資格制度があるフィリピンから来た100人が9月3日から約半年間、ソウル市内の家庭に勤務する。派遣先として優先されるのは共働き家庭や一人親家庭だ。

この思い切った事業には、家事労働者の業務範囲や文化の違いへの懸念など、数々の疑問の声が上がっている。最大の問題の1つになっていたのは報酬だ。より正確には、韓国の最低賃金(時給)9860ウォン(約1075円)を支払うべきかという問いだった。

外国人家事労働者の人権を保障するには最低賃金を適用するべきだという考えに対し呉は、「同意しない」と明言。「賃金水準は市場原理に従い、技能や貢献に応じたものであるべきだ」と主張した。

これに対して、韓国女性団体連合は今年3月8日の国際女性デーのイベントで、呉は「ジェンダー平等の障害」で、家事の価値を下げ、外国人労働者差別を助長していると非難。

外交分野でも、駐韓フィリピン大使がILO(国際労働機関)などの基準を引き合いに出し、両国は「同一賃金や無差別を支持する国際条約を批准している」と指摘した。

こうした経緯の末、研修のため8月上旬に来韓したフィリピン人家事労働者らは最低賃金を保証された。週5日間、1日4時間サービスを利用する場合、社会保険料負担などを含めた月額費用はおよそ119万ウォン(約13万円)だ。

だが新たに、大きな疑問が浮上している。フィリピン人家事労働者を雇うのは、韓国人家庭にとって割に合うのか。

若年層の共働き家庭が1日最低8時間、保育のためにサービスを利用したら、月額費用は約238万ウォンに上る。韓国の30代の家計所得中央値は509万ウォン(約55万5000円)。つまり、家計所得のおよそ47%を支払うことになる。

外国の「成功例」の結果は

費用対効果だけではない。もう1つの(そして、おそらく最も)重要な問いは、少子化対策として有効かどうかだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

拙速な財政再建はかえって財政の持続可能性損なう=高

ビジネス

トヨタの11月世界販売2.2%減、11カ月ぶり前年

ビジネス

予算案規模、名目GDP比ほぼ変化なし 公債依存度低

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中