最新記事
酪農

中国で牛乳受難、国家推奨にもかかわらず消費者はそっぽ

China Left With Excess Milk as Birth Rate Falls

2024年9月25日(水)16時47分
マイカ・マッカートニー
中国宁夏回族自治区の大規模酪農牧場

中国宁夏回族自治区の大規模酪農牧場。乳牛一頭ごとに小屋が分かれている(8月12日) Photo by Yuan Hongyan/VCG

<国や地方の子育て支援にもかかわらず出生数は減る一方。加えてコロナ後の景気停滞で消費者は「非必需品」の牛乳は買わなくなっている>

出生率の低下と経済減速のなか、中国の酪農業/乳製品業界は、牛乳の供給過剰に苦しんでいる。

【動画】ライターの火でも、長時間放置でも溶けない中国のアイスクリーム

中国における乳製品消費量は、歴史的に欧米諸国に比べて低水準だったが、都市化の進行、所得の増加、そして政府が栄養価の高い食品として乳製品の消費を推進したことを背景に、ここ数十年で増加していた。しかしここへきて、消費量は減少に転じている。

シンガポールのザ・ストレーツ・タイムズ紙によると、中国の生乳生産量は、2017年の3039万トンから、2023年には4200万トン近くへと急激に増加した。しかし、国内消費量はそれに追いついていない。

経済状況の悪化により、消費者は、乳製品などの非必需品への支出を控えるようになっている。2021年の1人当たり牛乳消費量は14.4キロだったが、2022年には12.4キロに減少した。

中国国家統計局が2022年に最後に公表したデータによれば、中国が2022年末に厳格な新型コロナウイルス規制を撤廃して以降、中国の消費は概ね低迷している。

金融サービス企業ストーンXのアジア乳業部門責任者を務めるリー・イーファン氏はロイターに、「業界は、牛乳と牛肉の両方で損失を出している」と語っている。

牛乳の平均生産コストは1キロ当たり約3.8元だが、現在の価格はそれを大きく下回る。小規模農家の多くは、事業を閉鎖するか、食肉用に牛を売らざるをえなくなっている、とザ・ストレーツ・タイムズ紙は報じている。

中国の出生率は、世界でも最低水準にある。数十年にわたって続いた一人っ子政策は2016年に廃止し、以降は国や地方自治体がさまざまな子育て支援策を講じているにもかかわらず、人口1000人当たりの出生数は、2017年には12.43人、2023年には6.39人と減少を続け、過去最低を記録した。

乳児用粉ミルクの需要も大幅な減少だ。

メラミン混入事件が輸出の妨げに

業界誌デイリー・ビジネス・アフリカによると、中国で乳児用粉ミルクを販売するニュージーランド企業「a2ミルクカンパニー」は、2024年6月に終了する会計年度において、中国の粉ミルク市場は、販売量が8.6%減、販売額が10.7%減を記録したと報告している。

牛乳メーカーは余った生乳を粉乳に加工しているが、6月時点では生乳換算で30万トン超の余剰が生じている。これは前年の2倍の量だと、ザ・ストレーツ・タイムズ紙は、中国乳業協会のコメントを引用するかたちで伝えている。

余剰分を輸出しようにも、高いコストと、2008年に起きた中国製粉ミルクの異物混入スキャンダルによる根強い不信感が壁になっている。2008年の事件では、タンパク質含有量を水増しするために、有毒化学物質メラミンが乳児用粉ミルクに添加されたことが原因で、少なくとも6人の乳児が死亡、数千人が入院した。

(翻訳:ガリレオ)


20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中