最新記事
アメリカ社会

アメリカ社会の転換点、Z世代の「正義」とパレスチナの大義

2024年8月8日(木)14時50分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学国際学部教授)

入手可能な統計を見ると、この世代は2011年から21年の間にうつ病患者の数が倍増している。また、自殺率も併せて上昇し、1990年代前半の最高値を超えている。 10代の自殺率は2007年から19年にかけてほぼ倍増し、20代前半では41%も跳ね上がった。

歴史的に、若年層の投票率は高年齢層よりも低い傾向にある。しかし今年は、イスラエルとハマスの停戦を求める抗議行動を組織するなど、若い有権者がこれまでにない形で政治的領域に足を踏み入れている。

 

Z世代は、自分たちのアイデンティティや関心を公共問題で表現する傾向がある。 例えば、性的アイデンティティや気候変動活動に関する社会的・文化的問題を中心に据えた政治的言説に惹かれる。これが、この世代の民主党支持率が65%なのに対し、共和党支持率が35%にとどまる理由のひとつかもしれない。

アメリカのZ世代にとってのパレスチナ問題

加えて、この世代は、現在のアメリカの国家システムは差別的な行為が社会のあらゆる問題に浸透している人種差別的なシステムであると考えているようだ。そのためか、政治的スペクトラムの端に対して急進的な選択を好むのが特徴的であり、また、それがアメリカ国内の二極化を強化している可能性がある。テンプル大コミュニケーション学の助教授で、『Rhetoric for Radicals』の著者でもあるジェイソン・デル・ガンディオ博士は、Z世代はやがて1960年代の活動家に似てくる」と予測している。そのうえで、どちらの時代も政治的な二極化(分断)が顕著だったと彼は指摘している。

昨年10月から続くイスラエルのガザ地区への凄惨な攻撃により、パレスチナ問題はZ世代にとって単に中東特有の政治問題ではなくなった。アメリカの価値観に道徳的に反する「大量虐殺」を支援するアメリカの政権、アメリカの若者にとって経済的に役に立たない技術や国への投資に向けられる資本、そして意思決定プロセスから疎外されているという若者の問題でもあった。

したがって、この世代の多くがパレスチナの大義を支持していることは一見政治的なスタンスに見えるが、それは政治的な動機からではなく、彼らが「社会正義の問題」とみなすものから生じているだろう。例えば、ジェネレーションZはBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動、LGBTQ(+)運動、そしてパレスチナの大義を支持する運動の間に違いはないと見ており、パレスチナ支持の抗議活動に対する警察の弾圧は、黒人に対する警察の人種差別的行為に似ていて、1960年代のゲイやトランスジェンダーに対する警察の弾圧にも似ているとみている。

近い将来、アメリカ社会ひいては世界に大きな衝撃を与えるだろうとされる彼ら。Z世代の価値観と行動は、11月のアメリカ大統領選にどのように反映されるのか、また、どれだけの若い有権者が投票に行くのか、そしてどの候補をより支持するのかに注目が集まっている。

2024091724issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年9月17日/24日号(9月10日発売)は「ニュースが分かる ユダヤ超入門」特集。ユダヤ人とは何なのか/なぜ世界に離散したのか/優秀な人材を輩出してきたのはなぜか…ユダヤを知れば世界が分かる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続落、米ハイテク株安や円高で 主力株に売

ワールド

WTO事務局長、2期目続投意向 「やり残した仕事」

ビジネス

アングル:「先行指標」ラスベガス労働市場は堅調、F

ビジネス

PE2社、米業務ソフト企業買収へ協議 評価額80億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優雅でドラマチックな瞬間に注目
  • 2
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰だこれは」「撤去しろ」と批判殺到してしまう
  • 3
    地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない」との研究が話題に...その仕組みとは?
  • 4
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将…
  • 5
    バルト三国で、急速に強まるロシアの「侵攻」への警…
  • 6
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 7
    原作の「改変」が見事に成功したドラマ『SHOGUN 将軍…
  • 8
    広報戦略ミス?...霞んでしまったメーガン妃とヘンリ…
  • 9
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座…
  • 10
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 4
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 5
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 6
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 7
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 8
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 9
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 10
    33店舗が閉店、100店舗を割るヨーカドーの真相...い…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 4
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 5
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 6
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 7
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 8
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 9
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 10
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中