最新記事
黙示録

ガザ壊滅を正当化するイスラエル極右のメシア信仰

GAZA AND THE APOCALYPSE

2024年8月20日(火)13時04分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
イスラエルの空爆で廃墟と化したガザ地区ラファ市街

イスラエルの空爆で不毛の地と化したガザ南端のラファ市街(2023年11月13日) Mohammed Talatene/dpa via Reuters Connect

<この戦争を聖書に記されたイスラエルの地を完全支配するための前段階と見なし、パレスチナ人を一掃してメシア(救世主)を迎えるという底なしの狂信主義>

歴史を通じて、危機や悲劇はしばしば終末論的な解釈を引き起こし、世俗的な大惨事に神聖な、あるいは救済的な意味を与えてきた。これは一神教だけでなく、共産主義やナチズムにも見られる。人間は、サタン(悪魔)なしにはメシア(救世主)も存在しないと考えがちなようだ。

この論理がどれだけ危険なのか。それは、今のパレスチナ自治区ガザを見ればよく分かる。ガザで起きている悲劇は、イスラエルやイスラム組織ハマス、そしてアメリカのキリスト教福音派のメシア幻想をあおっている。


イスラエルのネタニヤフ首相とその盟友で極右の宗教シオニスト党の神権的ファシストたちはガザの戦争を、聖書に記されたイスラエルの地(ヨルダン川と地中海に挟まれた地域)を完全支配するための前段階と見なしている。彼らにとってパレスチナ人は、この土地から完全に排除されるべき存在だ。

シオニストが掲げる終末論的な幻想には3つの段階がある。まず、国土を支配下に置く。次に、エルサレムの神殿の丘に「第三神殿」を建設する。そして最後の段階として民主主義を、イスラエル統治を神に任された「ダビデの王国」に置き換える。彼らはこの夢を実現するため、イスラエル政府が国内で民主主義や人権を侵害することを許している。

だが、メシアの到来を実現するには司法改革や入植地の建設だけでは不十分で、混乱や苦しみ、さらには聖書に預言がある終末の「ゴグとマゴグの戦い」が必要となる。イスラエルを根絶しようとする敵との戦いが勃発することで、メシアが到来すると考えられているのだ。一部の狂信的な者たちは、ガザにおける戦争の引き金となった昨年10月7日のハマスによるイスラエル襲撃を、ゴグとマゴグの戦いの始まりと見なしている。

メシア信仰を掲げるユダヤ人と同じような考え方を持つのが、アメリカのキリスト教福音派だ。彼らもガザの戦争を「神の計画を実行する契機になるもの」と見なし、終末を恐れるどころか待ち望んでいる。アメリカの著名な牧師ジョン・ヘイギーは、「イスラエルが大規模な戦争に関与しているときは喜べ。救済が近づいた証しだ」と語っている。

ハマスもメシア信仰のユダヤ人的イデオロギーを鏡写しにしている。1988年制定のハマス憲章では、「パレスチナの地」はイスラムの「ワクフ」(イスラム法の規定に基づく譲渡不可能な寄付)として「ムスリムの将来の世代にささげられる」もので、どの部分も「浪費または放棄」してはならないとされる。ハマスは2017年に発表した「一般原則と政策」でも、「ヨルダン川から地中海までのパレスチナの地の全面的かつ完全な解放以外のいかなる代替案も拒否する」と改めて表明している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米メーシーズ、第4四半期利益が予想超え 関税影響で

ワールド

ブラジル副大統領、米商務長官と「前向きな会談」 関

ワールド

トランプ氏「日本に米国防衛する必要ない」、日米安保

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中