最新記事
古生物学

新発見の白亜紀ワニ、化石が解き明かす古代の海洋生態

Fossils: 'Radically Different' Crocodile of 135 Million Years Ago Revealed

2024年8月16日(金)13時20分
アリストス・ジョージャウ
新種ワニの化石、白亜紀の海で泳ぐ姿を浮かび上がらせる(写真はイメージです) Stephane YAICH-Unsplash

新種ワニの化石、白亜紀の海で泳ぐ姿を浮かび上がらせる(写真はイメージです) Stephane YAICH-Unsplash

<白亜紀の海を泳いでいた新種のワニ目生物が、化石からその生態と姿を明らかに>

およそ1億3500万年前の中生代、いわゆる恐竜の時代に生息していた生物の化石について、「注目すべき」ワニの仲間の新種だったとする研究結果が発表された。

【画像】白亜紀の海を泳いだ新種ワニ、化石からその姿が明らかに


 

古生物学誌のジャーナル・オブ・システマティック・ペリオントロジーに発表された研究によると、「Enalioetes schroederi(E. schroederi)」と命名されたこの水生海洋生物は、白亜紀(1億4500万年~6600万年前)に現在のドイツを覆っていた浅い海に生息していた。

E. schroederiはワニ目メトリオリンクス科に分類されている。メトリオリンクスはイルカのような体の構造、鱗のない滑らかな皮膚、ひれ、尾びれといった特徴的な進化を遂げたことで知られる。そうした特徴は、クロコダイルやアリゲーター、カイマン、ガビアル、さらには既に絶滅した種も含めて、現代のワニとは大きく異なる(ワニ目は、絶滅した種も生きている種も含め、ワニのような爬虫類に関連した全ての種を網羅する)。

メトリオリンクスはイカや魚など動きの速い生物も含め、さまざまな獲物を捕食していた。大きなのこぎりのような歯を持つ種もあり、海洋爬虫類の仲間を餌にしていたことがうかがえる。

E. schroederiは白亜紀の最も早い時期に現れたメトリオリンクスの一種で、この時代の生物の多様性に改めて脚光を浴びせている。メトリオリンクスはその前のジュラ紀(2億100万年~1億4500万年前)に生息していた種が最も有名だが、白亜紀の化石はほとんど見つかっていなかった。

「Enalioetesは、白亜紀にメトリオリンクスがどう進化したかを探る手がかりを与えてくれる。ジュラ紀のメトリオリンクスは、ひれ、尾びれ、鱗板の喪失、鱗のない滑らかな皮膚など、ほかのワニとは大きく異なる体の形状を進化させた。そうした変化は海洋性が強まったことに対する順応だった」。論文を発表したスコットランドのエディンバラ大学ジオサイエンス校のマーク・ヤングはプレスリリースの中でそう解説している。

「その傾向が白亜紀に入っても続いたことを、Enalioetesは示している。ほかのメトリオリンクスに比べて目はさらに大きくなり、耳骨は一層コンパクトになった。泳ぐのも恐らくEnalioetesの方が速かった」

新種と分類した根拠

新種とする分類は、ドイツ・ハノーバー近郊にあるザクセンハーゲンの採石場から出土した立体的な頭骨と第一頸椎に基づく判断だった。この標本は白亜紀のメトリオリンクスの頭骨の中では最も保存状態が良く、完全な形を保っていた。

論文筆頭筆者でドイツのビーレフェルトにある自然史博物館のスヴェン・ザックスはリリースの中でこう述べている。「この標本は、3次元の形状を保った頭骨で知られる数少ないメトリオリンクスの一つとして注目に値する。そのおかげで標本のCTスキャンができ、こうした海洋ワニの生体構造について多くを学ぶことができた」

「保存状態が並外れて良好だったおかげで、この動物の体腔や内耳まで再現できた」(ザックス)

化石標本は100年以上前にドイツ政府の建築家が発見し、研究のためベルリンにあるプロイセン地質調査所のヘンリー・シュローダーの手に渡った。第2次世界大戦中に紛失したと思われていたが、後にドイツ西部のミンデン博物館で発見され、現在も同博物館が所蔵している。

過去にはメトリオリンクス科の別の属に分類されていたが、最新の研究の結果、「独特の」骨格の特徴から研究チームが新種と判断した。

(鈴木聖子)

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、核兵器実験の即時開始指示 習氏との

ワールド

米中首脳会談が終了、関税・レアアースなど協議 対立

ワールド

日中首脳会談を調整中=高市首相

ワールド

日銀、6会合連続で政策金利を据え置き 高田・田村委
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中