イランの新大統領就任「羊の皮を被った狼か、救世主か」今後を占う3つの要素
An Unknown Quantity
第2の要素は、ペゼシュキアン個人の強みと弱点だ。彼は選挙期間中に穏健な統治を唱える一方で、具体的な公約を避けることで、社会の過剰な期待を抑えると同時に、政治エリート層を安心させた。
これは大統領就任後に、ユニークな策を講じる余地を生み出すだろう。
ただ、ペゼシュキアンは国民の絶対的な人気によって支えられているわけではない。今回の大統領選の投票率は49.8%と、イランの歴代大統領選でも最低に近かった。ペゼシュキアンの得票率は50%強だったから、有権者全体では25%の支持しか得ていないことになる。
第3に、外交面での成果は、ペゼシュキアン本人の能力や意欲とは無関係の外的要因によって決まるだろう。
なかでも最大なのは、11月の米大統領選だ。1979年のイラン革命以降、イランとアメリカの2国間関係に大きな進展があったのは、アメリカの民主党大統領が2期目に入ったときと決まっていた。
ペゼシュキアンは選挙戦のときから、ロシアや中国などとの関係を維持すると同時に、欧米諸国とも対話を持つバランス外交を唱えてきた。
だが、新政権で第一線に復帰する可能性が高いベテラン外交官らは、21年に任期終盤のロウハニ政権と、就任まもないジョー・バイデン米大統領の任期が重なった短い時期の、バイデン政権の反応の鈍さに失望した経験がある。
そのせいで、ドナルド・トランプ前米大統領によって事実上崩壊した核合意を再建するチャンスは奪われた。
11月にトランプが再選されれば、イランは一段と難しい状況に追い込まれるだろう。トランプは再びイランに対して「最大限」の圧力をかける可能性が高い。それはイランを交渉のテーブルに連れ戻すよりも、核開発と近隣諸国への力の誇示へと走らせる可能性が高い。
トランプが残した傷痕
トランプが20年に、イラン革命防衛隊の精鋭組織クッズ部隊のガセム・ソレイマニ司令官を殺害させたことは、今もイランの権力者と国民の両方にとって大きなわだかまりとなっており、アメリカ側も、イランが報復として米政府高官を暗殺するのではという不安を抱いている。
ガザ戦争の影響も無視できない。イスラエルと小競り合いが続くレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラは、イランにとって中東で最強の非国家パートナーであり、イスラエルとの衝突が全面戦争にエスカレートすれば、欧米諸国にとってイランはますます有害な存在と見なされるようになるだろう。
イランはイエメンでもシーア派の反政府武装勢力フーシ派を支援。そのフーシ派が、サウジアラビア(イランにとっては中東の覇権争いにおける最大のライバル)やアラブ首長国連邦への攻撃を再開すれば、イランの孤立は深まる。