ダライ・ラマが89歳に...チベットに迫る「後継者問題」
後継者問題
多くの歴史学者は、チベットは13─14世紀の元(げん)王朝下でモンゴル帝国の支配下に置かれたと指摘する。元の支配領域は現在の中国の大部分とも重なるため、中国政府はこの時点でチベットの領有権を獲得したと主張しているが、専門家の間では、双方の関係は数世紀にもわたって大きく変化したほか、そのほとんどの期間チベットは自治を行っていたと考えられている。
中国は人民解放軍が1950年にチベットを「平和的に解放した」としている。チベットで1959年に起きた反中国蜂起が失敗に終わった後、ダライ・ラマはインドに亡命。同氏と無神論的立場をとる中国は1995年、2人の青年をそれぞれチベット仏教の序列2位の高僧パンチェン・ラマ11世に認定した。ダライ・ラマが指名した当時6歳の少年は直後に中国当局に誘拐され、以降その姿は一度も確認されていない。
多くの仏教徒が中国当局による選択は正統でないと考える一方、ダライ・ラマの後継者についても同様に並列で認定が行われる可能性があるとみている。中国側はダライ・ラマは必ず転生し、中国政府が後継者を認定しなければならないという姿勢を示している。
米共和党のマコール下院外交委員長はダライ・ラマを訪問した際、中国当局が「ダライ・ラマの後継者認定に介入しようとしているが、そうはさせない」と表明した。
インドは2022年に同国軍がチベット高原近郊の係争地で中国軍と衝突して以来、後継者問題に関する立場を明確にしていない。
「米国は、インドに比べれば国境侵犯を懸念する必要はない」と米国家安全保障会議(NSC)南アジア担当の元高官ドナルド・キャンプ氏は言う。インド外交のウォッチャーは、数万人ものチベット人が暮らし、国際社会での発言力も増すインドは、チベット指導者の後継者問題に巻き込まれることになるだろうと分析している。強硬派の評論家らは既にモディ首相に対し、中国に圧力をかける手段の一つとしてダライ・ラマとの会談を要請した。
インド外務省は後継者問題に関するコメントを差し控えた。元駐中国大使のアショク・カンタ氏は、「中国が認定プロセスを管理しようとすることに対し、(インドは)快く思わないだろう」と述べた。
「ダライ・ラマや関係者に協力することが中国にとって最良の選択肢だと、我々はこれまでも中国側に非公式に伝えている」とカンタ氏は言う。
「ダライ・ラマ後継については、何が起こるか分からない」
ダライ・ラマは亡命チベット人から敬意を集め、彼らの不満や正式独立運動への勢いを抑制していた。ただ、その死後もこうしたバランスが保たれるかどうかは、定かではない。
チベット青年会議(TYC)のソナム・ツェリン代表は、同会議は「中道」を尊重しているとしつつ、多くのチベット若年層と同様に完全な独立を望んでいるとの立場を示した。
チベット人は今のところ、死ぬ前に祖国に戻るというダライ・ラマの願いを叶えるべく支援に注力しているとソナム・ツェリン氏は言う。
ただ、もし願いが叶わなかった場合に「彼らが直面し得る感情の高ぶりや困難は、非常に想定しがたいものだ」と述べた。
亡命政府首相は、中国の主張に異議を唱えるという同政府の新たな姿勢が、チベットの歴史的地位を共通認識として持つ独立支持派と中道を求める人々を団結させたとの見方を示した。
いつかチベットに帰還するという強い願いを象徴する最高指導者の長寿を祝い、祈るために、13日の誕生日には世界中から何万人もの仏教徒や支持者が集まる。
ただ、ダライ・ラマと支持者に残された時間は、残り少なくなりつつある。
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