最新記事
化石燃料

「惑星破壊に加担するな」国連グテレス事務総長がPR業界に苦言を呈した理由

UN Leader Calls Out PR Firms for Fossil Fuel Advertising on Climate Change

2024年6月12日(水)13時00分
ジェフ・ヤング

「PRは何十年も前から気候変動に関する偽情報の根源だった」。クリーン・クリエイティブズのエグゼクティブディレクター、ダンカン・マイゼルは本誌にそう語った。同団体は広告代理店を温室効果ガスの排出企業から引き離す目的で2020年に設立された。

 

「気候変動について誤解を与えることは基本的に何もかも、化石燃料にかかわる広告代理店やPR会社から始まった」とマイゼルは言う。

マイゼルはグテレスの演説について、PR業界の中で気候変動に関する自分たちの価値観に沿った仕事をしようとする運動の関係者にとって励みになると評価した。さらに、この演説は化石燃料企業を代弁する企業へのメッセージでもあると述べ、「彼らにとってこれは、撤退を計画すべき時が来たという合図になると思う。明日にでもというわけにはいかないかもしれないが、これはスタートの合図だ」と話している。

クリーン・クリエイティブズは2種類の企業リストをまとめている。1つは化石燃料側の宣伝を担う世界数百社のリストで、PR・広告代理店の世界大手6社が名を連ねる。もう1つのリストには、石油、ガス、石炭企業との仕事はしないと誓約した企業が並ぶ。

マイゼルによると、同団体の誓約は34カ国の1000社以上が採用した。この中で最大のPR会社はサンフランシスコに本社のあるアリソン・ワールドワイドで、本誌がまとめた米国のPR会社ランキングで最大の5つ星を獲得している。

アリソンのパーパス担当執行副社長、ホイットニー・デイリーは、誓約に加わることを昨年秋に決めたのは、会社としての価値観と事業戦略の両方が動機だったと本誌に説明した。

「自分たちにそれができること、石油と石炭、ガスの仕事を拒んでもまだ利益が出せることを、我々は市場と業界に印象付けている」とデイリーは語り、この誓約によって、同じような考え方の潜在顧客に対して自分たちの気候に対するコミットメントを示すことができると言い添えた。

グテレスは演説の中で、広告業界で恐らく最も有名な存在(架空ではあるが)を引き合いに出している。

「(化石燃料会社は)広告会社やPR会社に助けられ、けしかけられてきた。マッドメン――あのテレビシリーズを覚えているだろうか――が狂気に火を付けた」。マッドメンは1960年代のニューヨークの広告業界を描いて長年の人気を誇ったAMCのテレビドラマシリーズ。

マッドメンの主役、ドン・ドレイパーはカリスマ広告マン。道徳的葛藤を抱えながら、健康不安をごまかそうとするたばこ会社を手助けしてきた。最終回では海辺の瞑想施設に引きこもって自分の人生を回想する。クライマックスシーンは、ドレイパーが自分のやり方を変えたのかどうかという疑問を残したまま終わる。

デイリーは、マッドメンの引用を笑いながらも、やはり内省の機会にこれを利用した。社会に影響を及ぼすことを意図する業界の一員として、PRや宣伝のプロは気候変動のような社会的問題に果たすべき重要な役割があるとデイリーは言う。

「私たちは文化的会話を形成する言葉の力を持っている。どんな会話を形成したいのか」

(翻訳:鈴木聖子)

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中