保守強硬派の内紛...ライシ大統領死後、イラン大統領選の行方は?
Hardliner vs. Hardliner
有力な後継者と目されてきたライシ大統領の急死で激化する保守強硬派内の主導権争いに警鐘を鳴らす最高指導者ハメネイ IRANIAN LEADER PRESS OFFICEーANADOLU/GETTY IMAGES
<お家芸の派閥抗争に新たな展開、国内外に緊張を抱えるイスラム共和国で「跡目争い」が政情不安に拍車をかける>
イランでは5月19日にイブラヒム・ライシ大統領がヘリコプターの墜落事故で死亡した後、激しい権力闘争が巻き起こっている。
大統領の死後50日以内に後任を選出するという憲法の規定に従い、6月28日に大統領選が実施される。3日に立候補登録が締め切られ、80人が名乗りを上げた。その顔触れは予想どおり、ライシと同じ保守強硬派が多数を占める。
イランの選挙は、イスラム法学者などで構成される護憲評議会の資格審査を経て、正式な候補者が決まる。2020年や今年3月の国会議員選挙では保守強硬派の主導のもと大量の候補者が失格とされ、21年の大統領選でも改革派や保守穏健派が90人以上、排除された。
今回も護憲評議会の資格審査を経て、11日に候補者の最終名簿が発表される。穏健派や改革派の候補者が認められる可能性もあるが、それは、国民の大多数が正当なものと認めていない選挙の投票率を引き上げるためだ。
大統領選の結果はイランの今後を大きく左右する。ライシは21年に大統領に就任する前から、高齢の最高指導者アリ・ハメネイの有力な後継候補と目されてきた。そのライシが死んで、保守強硬派の内部で新たな戦いが始まっている。今回の大統領選は、イランの政治家にとって究極の政治決戦である最高指導者の継承争いにおいて、新たな足がかりを築く戦いなのだ。
この国の派閥抗争は今に始まったことではないが、強硬派同士が政治の主導権争いを繰り広げることは、新たな展開でもある。従来は基本的に強硬派と改革派の対立が中心だった。
過去数十年、改革派が行政府と立法府を掌握していた時期でさえ、強硬派はイランの重要な神権的聖職者の支持を得てきた。13~21年に穏健派のハサン・ロウハニが大統領を務めた時期も、強硬派はかなりの影響力を維持していた。
超保守グループの台頭
そして今、保守強硬派は互いに敵対している。なかでも注目されている一派は、ライシ大統領時代に台頭した「イスラム革命永続戦線(ペイダリ戦線)」で、政府と議会の双方で大きな影響力を振るっている。
超保守的な姿勢で知られるイスラム革命永続戦線は、近年のイランの内政および外交政策の形成に大きな力を発揮してきた。しかし、その支配に反発する他の強硬派と、厳しい対立が続いている。
その中でも突出しているのが、イラン革命防衛隊出身のモハマド・バケル・ガリバフ国会議長が率いる「イスラム革命勢力連合評議会」だ。ガリバフは05年と13年の大統領選に立候補。17年にも立候補を表明したが撤退した。
今年5月28日に議長に再任された数日後に、ガリバフは再び大統領選への立候補を表明した。ガリバフと親族は賄賂と汚職で悪名高いが、本人はハメネイと近い関係にある。
これらの派閥は政権内のさまざまな保守勢力を代表しており、それぞれ独自のアジェンダと将来のビジョンを持っている。権力と経済的利益を手中に収めたい彼らは、対立を隠すつもりもない。相手を弱体化させる戦略として、例えばソーシャルメディアを使って汚職を告発している。
革命防衛隊の不安要素
保守強硬派内の衝突は、政情をさらに不安定にする。イランは目下、国内外で厳しい試練に直面している。
国内では、22年9月にクルド系イラン人女性マフサ・アミニ(当時22)がヒジャブで頭部を適切に覆っていなかったとして道徳警察に逮捕され、拘束後に急死したことを発端に、全土で大規模な抗議デモが勃発。ライシ政権は深刻な正統性の危機に直面していた。社会の混乱は経済的苦境によって悪化し、国民の間に不満が広がっている。
対外的にはイスラエルやサウジアラビアなど、地域の仇敵と対峙している。また、厳しい経済制裁により、アメリカとその同盟国からの大きな圧力にも直面している。
社会不安が広がり、政権は革命防衛隊や保守派民兵組織のバシジなどによる治安の取り締まりに、かつてないほど依存するようになった。ただし、革命防衛隊のような重要な経済・治安組織も一枚岩ではない。保守強硬派で構成される上層部は、それぞれが異なる派閥を明示的または暗黙的に支持している。
保守強硬派内の争いが激化すると、治安組織が分断される可能性が高まる。彼らエリート派閥は、自分たちの権力を拡大してライバルを排除するゼロサムゲームを展開し、不安定さに拍車をかけている。これはイスラム共和国の存続に深刻な脅威となりかねない。
1979年にイスラム共和国を樹立した革命の最高指導者ルホラ・ホメイニの死後35年を記念する演説で、ハメネイはあからさまな内紛に警鐘を鳴らした。
「悪口や誹謗中傷をまき散らすことは、前進の助けにならず国の評判を傷つける」とし、さらに「選挙は名誉を懸けた壮大な場であり」「権力を手に入れるための戦いの場ではない」と強調した。
一連の権力闘争の結果は、イランの政治の軌道を決めることになる。イラン政権は、より広い地域安全保障の複合体において重要な役割を担っている。このことを考えれば、内紛の影響は国境を越えて大きく広がるだろう。
Afshin Shahi, Associate Professor (Senior Lecturer) in Middle East Politics & International Relations at Keele University, Keele University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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