最新記事
乱気流

気候変動で増える乱気流、日本にもあった危険ルート

Are some routes more prone to air turbulence? Will climate change make it worse? Your questions answered

2024年5月29日(水)18時21分
ダグ・ドルゥーリー(豪セントラルクイーンズ大学航空学教授)

乱気流はどこでも起こるが、とくに起こりやすいルートもある Anterovium-shutterstock

<先週、激しい乱気流に巻き込まれて緊急着陸を余儀なくされたシンガポール航空の事故は、飛行機ではよく経験する乱気流がいかに恐ろしいものかを印象付けた。どうすれば避けられるのか>

空の旅では、ちょっとした乱気流はよくあることだ。激しい乱気流に巻き込まれることはめったにないが、巻き込まれた場合は命に関わる。

5月21日のシンガポール航空SQ321便、ロンドン発シンガポール行きは、その危険性を示している。飛行中に激しい乱気流に巻き込まれた結果、1人が心臓発作と思われる症状で死亡、数人が重症を負った。重症を負った乗客が病院で治療を受けられるよう、航空機は進路を変更し、タイのバンコクに着陸した。

乱気流はどこでも起こり得るが、特に起こりやすいルートもある。

気候変動は乱気流の可能性を高め、乱気流をより激しくすると予想されている。実際、乱気流は過去数十年ですでに悪化していると示唆する研究結果もある。

乱気流はどこで起こるのか?

ほぼすべての航空便が、何らかの形で乱気流に遭遇する。

航空機が、他の航空機の後ろで離着陸する場合も、前方の航空機のエンジンや翼端から発生する風が、後方の航空機に「後方乱気流」をもたらす可能性がある。

地表近くでは、空港周辺の気象パターンに関連する強風で乱気流が発生することがある。高度が上がると、他の航空機の近くを飛行している場合には再び後方乱気流が発生したり、雷雨による上昇気流や下降気流が原因で乱気流に遭遇することもある。

高高度では、予測や回避が難しい、別の種類の乱気流も発生する。いわゆる「晴天乱気流」は、雲のような視覚的兆候がない。多くの場合は、暖かい空気が上昇し、冷たい空気のなかに入り込むことで発生する。このタイプの乱気流は気候変動によって悪化すると広く予想されている。

最も基本的な乱気流は、2つ以上の風が衝突して渦が発生し、気流が乱れることで生まれる。

しばしば山脈の近くで発生する。山脈の上空では、風が加速しながら上昇するためだ。

さらに乱気流は、ジェット気流の端でもよく発生する。ジェット気流とは、高高度で地球を周回している強風の狭い帯だ。航空機はしばしば、スピードを上げるためジェット気流に乗る。しかし、ジェット気流に出入りするときは、その外側にある、より遅い風との間にある境界を越えるときに、乱気流が発生することがある。

乱気流が最も多いルートは?

乱気流のパターンは世界地図の上に描くことができる。航空会社はこの地図を利用し、事前に代替空港を決めたり、不測の事態に備えたりしている。

newsweekjp_20240529063242.png

乱気流は気象条件によって変化するが、乱気流が発生しやすい地域やルートもある。下のリストを見ればわかるように、最も乱気流が多いルートの大部分は、山の近くを通過している。

newsweekjp_20240529063709.png

オーストラリアでは2023年、気流の乱れを表す指標の平均が最も高かったのはブリスベン─シドニー便だった。それに続いたのがメルボルン─シドニー便と、ブリスベン─メルボルン便だった。

気候変動によって乱気流が増える可能性も

気候変動は、航空の未来にどのような影響を与えるのだろう?

2023年に発表された研究では、1979年から2020年の間に、晴天乱気流が大幅に増加した証拠が明かされた。激しい乱気流が55%増加した地域もあった。

newsweekjp_20240529064147.png

気候モデルを使った2017年の別の研究では、いくつかの気候変動シナリオにおいて、2050年までに晴天乱気流が4倍に増えると予測している。

乱気流に対して何ができるのか?

乱気流の影響を減らすために何ができるのだろう? 乱気流を検知する技術はまだ研究開発段階にあるため、パイロットは、気象レーダーから得た情報をもとに、湿度の高い気象パターンを回避する最適なルートを決定している。

パイロットは、気象レーダーの画像から、最も激しい乱気流が予想される場所を読み取り、航空管制官と協力してその場所を避ける。予想外の乱気流に遭遇したときは、パイロットは即座に「シートベルト着用」サインを点灯させ、エンジンの推力を弱めて機体を減速させる。また、航空管制官と連絡を取り合い、気流が乱れていない場所へと、機体を上昇または下降させる。

地上の気象センターでは、人工衛星の助けを借りて、発達中の気象パターンを見ることができる。この情報はリアルタイムで提供されているため、乗務員は、フライト中に予想される天候を知ることができる。また、飛行ルート上で嵐が発生した場合、乱気流が予想される場所も知ることができる。

私たちは、乱気流の増える時代へと向かっているようだ。航空会社は、航空機や乗客への影響を軽減するため、今後もできる限りの努力をするだろう。しかし、一般の旅行者にとっては、メッセージはシンプルだ。シートベルト着用サインが点灯したら、それに従おう。
(翻訳:ガリレオ)

The Conversation

Doug Drury, Professor/Head of Aviation, CQUniversity Australia

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中