最新記事
新たな超大国

「インドで2030年、奇跡の成長が始まる」モディが体現する技術革新と伝統の両立への道

MODI’S MOMENT

2024年5月16日(木)17時09分
ダニシュ・マンズール・バット(本誌アジア地域編集ディレクター)

newsweekjp_20240516025813.jpg

モスク(イスラム礼拝所)跡地にヒンドゥー教寺院を建設するなどはモディのヒンドゥー至上主義的な政策の一例だ RITESH SHUKLA/GETTY IMAGES

約2億人のイスラム教徒をはじめインドの宗教的少数派は、モディ政権下で抑圧されている──相手が誰であれ、そんな話が出ると、モディは鼻で笑う。

「フィルターバブルに籠もり、外部の人間に耳を貸さない連中のお決まりのセリフだ。今どきインドの少数派だってそんなたわ言を信じない」

実際はどうなのか。BJPは多数派重視の政策で支持をつかみ、選挙に勝つだけでなく、イスラム教徒を攻撃しやすい雰囲気を生み出していると、イスラム教徒の国会議員アサドゥディン・オワイシは本誌に話した。

「選挙でモディが勝利すれば......現政権はイスラム教徒を弾圧する権限を委任されたことになる」

インド社会を引き裂くのは宗教上の断層線だけではない。公式データではインドの失業率は4%弱だが、これにはカラクリがある。

「ニューデリーの公証人を訪ねると、彼の周りには4人の名目上の被雇用者がいるだろう。1人はペンを持ち、1人は書類を動かし、1人は印鑑を押し、1人はお茶を出す」と、米タフツ大学のチャクラボルティは説明する。

ILO(国際労働機関)の今年4月の発表によれば、インドの大卒者の失業率は29.1%で、読み書きができない人の失業率(3.4%)の9倍に上る。

公務員の募集には、募集資格を上回る高学歴者が殺到する。地方の警察が小学校卒業程度でこなせる事務作業員を募集したところ、大卒者が3万3000人余りも応募したという。

生産年齢人口が爆発的に増えるなか、就労者が十分に能力を発揮できる雇用の創出が、高度経済成長の実現とともに、長年この国をむしばんできた所得格差の是正の鍵を握る。

こうした難題はあるものの、世論調査を見るとモディの3期続投はほぼ確実だ。前回19年の下院総選挙で圧勝したBJPは、さらに議席を増やすとみられる。

有権者数9億6000万人の世界最大の選挙は6月まで7回に分けて行われる。最大野党の国民会議派が今回の総選挙で結党以来最悪の敗北を喫するのは目に見えている。

ネールの国からモディの国へ

選挙におけるBJPの快進撃を支えているのは、73歳のモディその人の人気にほかならない。

主要な言語だけで120語以上もあるインドでは、全国政党であっても北部と中部のヒンディー語圏以外の地方では地元の有権者にアピールするため、地元の有力者を「党の顔」にする手法を取る。だがモディ時代にBJPはこの戦略を捨て、地方でもモディを前面に出して選挙戦を展開してきた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 9
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中