最新記事
少子化対策

韓国で子供一人当たり1100万円という破格の出産奨励金

South Korean Company Offers $75,000 Baby Bonus Amid Population Crisis

2024年4月1日(月)15時17分
マイカ・マッカートニー(台北)

首都圏広域急行鉄道の開通を祝う尹錫悦大統領。鉄道などの高速化で痛勤時間を減らし、子どもを持ってもらうことも狙っている(3月29日、東灘) Reuterw

<「国が滅びる」という危機感から。ある大手企業が立ち上がった>

少子化問題が深刻な韓国で、ある民間企業が子供が1人生まれるたびに従業員に1億ウォン(約1100万円)を支給するという出産奨励策を始めた。

破格の支給を開始したのは韓国の建設大手、富栄グループだ。現地の報道によれば同グループの李重根(イ・ジュングン)会長は2月、「出生率が低いままだと、韓国は国家存立の危機に瀕してしまう」と語ったという。

 

韓国の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むとされる子供の人数)は以前から世界最低水準だったが、昨年はさらに低下し0.72だった。前年比0.06減で、人口の維持に必要な人口置換水準(2.1)にははるかに届かない数字だ。

【動画】韓国女子高生たちの壮絶ないじめ

少子化の背景にあるのは、結婚や家庭を持つことへの考え方の変化や経済的な不安、就職難、独身生活志向といった社会的な変化だ。

韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は22年、政府は少子化対策として、それまでの16年間に計280兆ウォン(約31億円)を投じたと述べた。今年からは、赤ちゃんのいる家庭への手当が月100万ウォン(約11万円)まで引き上げられた。

冒頭の富栄グループのように、国の少子化政策に一役買おうとしている企業もある。

「出産の奨励に貢献するとともに国の将来を憂えている企業だと認知してもらえれば」と富栄の李会長は述べたとCNNは伝えている。

富栄の広報担当者はCNNに対し、奨励金は女性だけでなく男性社員にも支払われると述べたという。

50年には若い成人の数が半分に?

また韓国の聨合通信によれば、尹大統領は12月に「出生率低下の問題については、現状をもっと真剣に受け止め、その原因と解決方法についてこれまでとは違う次元から考える必要がある」と述べたという。

「残された時間はあまりない。全ての省庁が出生率低下の問題に並々ならぬ決意で取り組んでもらいたい」と彼は述べた。

少子化のもたらす影響は非常に深刻だ。

韓国の人口は約5100万人だが、昨年まで4年連続で減少している。その一方でこの数十年で高齢化が急速に進んでいる。

1990年に19~34歳の若年層は全人口の約3分の1を占めていた。だが20年には、この年齢層の人口は1021万人となり、全人口のたった5分の1になってしまった。韓国の統計局は、50年までにこの年齢層の人口は521万人まで減少すると予測している。

対照的に、65歳以上の高齢者が全人口に占める割合は22年には17.5%となった。この流れが続くと、10年後には高齢者の人口が19~34歳の若年層の人口を上回ることになる。

若い労働年齢の人口が減ることは、長期的に見た韓国の競争力にも暗い影を落としている。韓国は現在、アジア第4位の経済規模を誇っている。

中国や日本、台湾といった周辺諸国でも、韓国ほどではないにしても低出生率という問題を抱えており、少子高齢化対策は喫緊の課題だ。

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中