最新記事
韓国

日本で免疫治療を受ける韓国のがん患者、韓国の法改正で医療渡航は変わるのか?

2024年2月5日(月)15時02分
佐々木和義

免疫治療の普及に向けた医療界の葛藤と経済的影響

免疫治療を求める患者数に比べて対応可能な医療機関が不足しており、申し込みから施術まで数か月かかる患者も少なくない。

免疫治療が規制されてきた背景に医師らの反対がある。がん患者に日本の免疫治療を紹介するエージェントは、普及によって収益が減ることを懸念する医師が少なくないと話している。

韓国のがん治療は、患者負担が少ない一方、医療機関は収益が大きい。韓国の公的健康保険は病気や治療によって支給率が異なっており、がん治療は95パーセントが支払われる。加えて民間医療保険も免責を除いた患者負担を全額補填する「実損填補保険」が普及している。

 
 

保険診療と自由診療を組み合わせる混合診療が認められており、例えば自己負担額の90パーセントを補填する医療保険の加入者が、診察や検査、入院といった保険診療50万円に加えて100万円の自由診療を受けた際の本人負担は10万円ほどである。医療機関は実損填補保険に加入している患者に自由診療を提案し、患者は医療機関が提示した治療法を選択する。

免疫療法推進派は治療費の国外流出を懸念する。免疫治療は1回の採取と数回の投与が主流である。投与1回数万円の幹細胞注射もなかにはあるが、1回あたり数十万円、総額100万円から500万円が一般的で、体質や病状等により追加投与も行われる。

韓国の先端再生バイオ法成立後の影響と展望

韓国のがん患者が日本の医療機関に支払う総額は、少なく見積っても年間数百億円に達している。加えて、渡航費や滞在費、また末期患者は介助する家族等の帯同も必須で、患者負担、すなわち日本への支出はさらに大きい。

免疫療法は、がんの進行を止めるなど相応の効果が確認されるが、反対派医師は収益減を心配し、推進派は治療費の国外流出を懸念する。患者への配慮はその次となっている。

先端再生バイオ法が成立し、韓国内での免疫治療が可能となった。韓国企業が開発した治療を受ける患者が利用するとみられるが、高度医療という性質上、実績がある日本の治療を求める患者が減ることはないだろう。

「がん治療は日本」がなくなることはないどころか、療法自体の認知度が高まって増える可能性も考えられる。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

和平計画、ウクライナと欧州が関与すべきとEU外相

ビジネス

ECB利下げ、大幅な見通しの変化必要=アイルランド

ワールド

台湾輸出受注、10カ月連続増 年間で7000億ドル

ワールド

中国、日本が「間違った」道を進み続けるなら必要な措
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中