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若者が騙され、親中カンボジアで「監禁・暴行、臓器売買・売春」事件もあった...国際法の陥穽に陥った台湾人

例えば、台湾人がアフリカなどへ出稼ぎに行き、現地で中国人労働者とトラブルになると、現地警察に逮捕されて中国政府に通報される。中国政府が「自国民だ」と主張して、台湾人を犯罪者として強制送還してしまう。

中国から経済支援を受けている現地政府は見て見ぬふりで、外交関係のない台湾当局が「台湾人は台湾へ送還されるべきだ」と主張しても、なす術がない。

同人権団体は、「台湾人は中国にルーツがなく、家族もいない」ことから、中国で深刻な人権侵害をこうむるリスクがあり、「台湾の主権を弱めるために利用されている」と指摘する。

中国の習近平政権が、今後、台湾に対して締め付けを強化してくることは明らかだろう。

台湾総統選が終わった直後の1月17日から18日にかけて、総統選以後では最多となる中国軍機24機と中国軍艦5隻が、台湾海峡周辺で大規模な軍事演習を行った。1月26日には、中国の駆逐艦が台湾海峡の沿岸部を越えて航行し威嚇した。

国際外交の面でも、台湾総統選直後の1月15日、南太平洋の島国ナウル共和国は台湾と断交し、24日に中国と国交を樹立すると、「台湾は中国領土の不可分の一部であることを承認した」と関係文書に明記した。中国から資金援助があったことは明白だろう。

これで台湾と外交関係を結ぶ国は12カ国に減少した。民進党政権を敵視する中国の習近平政権は、台湾と外交関係を結ぶ国の切り崩しを加速させ、ますます国際的に孤立させようとしている。

今年、世界選挙イヤーの幕開けとなった台湾総統選で民進党が勝利したことは、世界の民主主義の行方を見極める上で、重要な1勝となった。だが今後、もし民進党政権が物価高と若者の就職難を解決できなければ、若者の支持を失うことになるだろう。

次期総統選では「第三の道」を行く民衆党が大幅に票を伸ばし、民主主義体制の一角が崩れるかもしれない。民衆党は今のところ社会福祉などを掲げているが、中国の軍事的威圧の下では親中路線に傾く可能性が十分あるからだ。

いずれにしても、台湾の若者や出稼ぎ労働者は、今後も外交関係のない国へ出かけて行かざるを得ないだろう。台湾政府の力が及ばず、主権国であるはずの中国からも保護されない彼らは、国際法の陥穽(かんせい)に陥っているのだ。

1月18日、台湾当局は日本の能登半島地震の被災者のため、市民から集められた寄付金が21億円を超えたと発表した。自腹を切ってはるばる現地まで炊き出しにやってきた台湾の人たちもいる。繊細で思いやりに溢れた台湾人の優しさが、本当に胸に染み入るようだ。

西側諸国は外交関係があってもなくても、民主主義を守ろうと奮闘する台湾の実情にもっと目を向け、世界で孤立する台湾人の救済に支援の手を差し伸べるべきではないか。

譚璐美(たん・ろみ)
ノンフィクション作家。東京生まれ、慶應義塾大学卒業、ニューヨーク在住。日中近代史を主なテーマに、国際政治、経済、文化など幅広く執筆。著書多数。最新刊は『中国「国恥地図」の謎を解く』(新潮新書)。


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