最新記事
台湾

若者が騙され、親中カンボジアで「監禁・暴行、臓器売買・売春」事件もあった...国際法の陥穽に陥った台湾人

2024年2月3日(土)18時00分
譚璐美(たん・ろみ、ノンフィクション作家)
台湾人 中国人 カンボジア

詐欺容疑で捕まった台湾人と中国人が、プノンペン国際空港から中国に強制送還される様子。周囲を中国警察とカンボジア警察に囲まれている(2016年6月) Samrang Pring-REUTERS

<先の総統選では、第三勢力の民衆党が善戦した。その背景を探るなかで思い出したのが、2022年に台湾社会を震撼させた事件と、出稼ぎ労働者の「中国強制送還」問題だ>

1月13日、台湾で4年に1度の総統選挙が行われ、民進党の頼清徳候補が国民党の侯友宜候補を破って勝利した。これで3期目となる民進党政権は、蔡英文政権の親米路線を引き継ぐことになるだろう。

今回の総統選の最大の焦点は「民主主義を守れるかどうか」だったが、それ以上に印象的だったのは、第三勢力の民衆党が予想外に善戦したことだ。

敗北宣言をする柯文哲候補が笑顔で、「次の総統選では必ず勝ってみせる!」と、自信のほどを覗かせた理由は、終盤まで投票先を決めかねていた若者票が大量に民衆党に流れた結果だとみられている。

選挙直前の時期に台湾を訪問していた私は、若者たちに今最も関心があることは何かと聞いてみた。「就職して、結婚して、住宅を購入することです」と、多くの若者が答えた。

ここ数年、台湾では若者の就職難が続いている。

台湾行政院主計総処(統計局)の発表(2024年1月22日)によると、2023年12月の失業率は3.33%、年間失業率も平均3.48%で、いずれも過去23年で最低値となった。台湾経済は順調だ。

だが若年失業率だけを見ると、12.47%(2023年8月)、11.33%(2023年12月)と、失業率全体の3倍近くで高止まりしている。

経済的に恵まれた若者なら、海外留学して知識と先端技術を身に着け、輝かしい未来を手に入れられる可能性もある。だが普通の若者は物価高の台湾で日々の食事にも事欠き、理想的な就職先を見つけるのは難しい。

台湾 頼清徳

台湾次期総統の頼清徳。民進党は総統選に勝利したが、立法院(国会)では敗れて少数与党に。新政権は若者たちを苦境から救えるか Ann Wang-REUTERS

2016年以後、民進党政権は対外貿易戦略の重要な柱として「新南向政策」を打ち出し、ASEAN、南アジア、ニュージーランド、オーストラリアと幅広い関係強化を進めてきた。

いきおい就職難の台湾から海外へ出稼ぎに行こうとする若者が増えた。そうした中で、2022年、台湾社会を震撼させる大事件が発覚した。

「一帯一路」港湾都市に巣食う「蛇頭」と中国マフィア

日本ではあまり注目されなかったが、事件のあらましは次のようなものだ。

2022年8月、カンボジアで「高収入の仕事がある」と誘われ、現地へ赴いた若者たちが監禁・暴行を受け、人身売買された挙句に、臓器売買や売春の餌食になっていたことが分かったのだ。現場はカンボジア警察も手を出せない中国マフィアの「治外法権」エリアだとされた。

BBC中国語版(2022年8月18日付)によれば、一説には4000人もの台湾の若者がカンボジアで失踪したとされ、実際に台湾当局に通報があった420件のうち、帰国できたのはわずか46人で、未だ約120人と連絡がつかないという(記事掲載当時)。

台湾移民署によれば、2021年7月にカンボジアへ渡った人は260人で、その後次第に増加し、コロナ禍で一時減少したものの、2022年2月に海外渡航が解禁されると一気に増えて、同年6月には1500人にのぼった。

座談会
「アフリカでビジネスをする」の理想と現実...国際協力銀行(JBIC)若手職員が語る体験談
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

米国務長官、カタールに支援継続呼びかけ イスラエル

ビジネス

NY州製造業業況指数、9月は-8.7に悪化 6月以

ビジネス

米国株式市場・午前=S&P・ナスダックが日中最高値
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中