若者が騙され、親中カンボジアで「監禁・暴行、臓器売買・売春」事件もあった...国際法の陥穽に陥った台湾人
詐欺容疑で捕まった台湾人と中国人が、プノンペン国際空港から中国に強制送還される様子。周囲を中国警察とカンボジア警察に囲まれている(2016年6月) Samrang Pring-REUTERS
<先の総統選では、第三勢力の民衆党が善戦した。その背景を探るなかで思い出したのが、2022年に台湾社会を震撼させた事件と、出稼ぎ労働者の「中国強制送還」問題だ>
1月13日、台湾で4年に1度の総統選挙が行われ、民進党の頼清徳候補が国民党の侯友宜候補を破って勝利した。これで3期目となる民進党政権は、蔡英文政権の親米路線を引き継ぐことになるだろう。
今回の総統選の最大の焦点は「民主主義を守れるかどうか」だったが、それ以上に印象的だったのは、第三勢力の民衆党が予想外に善戦したことだ。
敗北宣言をする柯文哲候補が笑顔で、「次の総統選では必ず勝ってみせる!」と、自信のほどを覗かせた理由は、終盤まで投票先を決めかねていた若者票が大量に民衆党に流れた結果だとみられている。
選挙直前の時期に台湾を訪問していた私は、若者たちに今最も関心があることは何かと聞いてみた。「就職して、結婚して、住宅を購入することです」と、多くの若者が答えた。
ここ数年、台湾では若者の就職難が続いている。
台湾行政院主計総処(統計局)の発表(2024年1月22日)によると、2023年12月の失業率は3.33%、年間失業率も平均3.48%で、いずれも過去23年で最低値となった。台湾経済は順調だ。
だが若年失業率だけを見ると、12.47%(2023年8月)、11.33%(2023年12月)と、失業率全体の3倍近くで高止まりしている。
経済的に恵まれた若者なら、海外留学して知識と先端技術を身に着け、輝かしい未来を手に入れられる可能性もある。だが普通の若者は物価高の台湾で日々の食事にも事欠き、理想的な就職先を見つけるのは難しい。
2016年以後、民進党政権は対外貿易戦略の重要な柱として「新南向政策」を打ち出し、ASEAN、南アジア、ニュージーランド、オーストラリアと幅広い関係強化を進めてきた。
いきおい就職難の台湾から海外へ出稼ぎに行こうとする若者が増えた。そうした中で、2022年、台湾社会を震撼させる大事件が発覚した。
「一帯一路」港湾都市に巣食う「蛇頭」と中国マフィア
日本ではあまり注目されなかったが、事件のあらましは次のようなものだ。
2022年8月、カンボジアで「高収入の仕事がある」と誘われ、現地へ赴いた若者たちが監禁・暴行を受け、人身売買された挙句に、臓器売買や売春の餌食になっていたことが分かったのだ。現場はカンボジア警察も手を出せない中国マフィアの「治外法権」エリアだとされた。
BBC中国語版(2022年8月18日付)によれば、一説には4000人もの台湾の若者がカンボジアで失踪したとされ、実際に台湾当局に通報があった420件のうち、帰国できたのはわずか46人で、未だ約120人と連絡がつかないという(記事掲載当時)。
台湾移民署によれば、2021年7月にカンボジアへ渡った人は260人で、その後次第に増加し、コロナ禍で一時減少したものの、2022年2月に海外渡航が解禁されると一気に増えて、同年6月には1500人にのぼった。