最新記事
スマートニュース・メディア価値観全国調査

メディア接触の新潮流...「ニュース回避傾向」が強い層の特徴とは?

2024年2月9日(金)17時00分
大森翔子(法政大学社会学部専任講師)

メディア情報環境の差異と「ニュース回避傾向」

さて、このように異なるメディア環境に身を置くことと、情報接触に対する意識に関連はあるのだろうか。最後の分析として、上記のメディア接触パターンと「ニュース回避傾向」の関連性に関する分析結果を紹介したい。ニュース回避傾向(News avoidance)は、市民がニュースを避けて情報接触することを指し、本調査では「できることならニュースを見ずに過ごしたい」という質問で測定された。

SMPP調査(郵送)における「ニュース回避傾向」と所属クラスの関係
大森2.png

上の図は、ニュース回避傾向(値が大きいほど、ニュース回避傾向が強い)を従属変数とし、独立変数として各所属クラスのダミー変数を投入し推定した回帰分析の結果である(どのメディア接触質問にも「接触していない」とした回答者をクラス0と区別し、また、クラス3所属ダミーが比較基準になっている)。係数が統計的に有意であったのは、クラス2とクラス5の所属者である。

クラス2グループに所属する人は、特にテレビ系メディアへの接触率が高く、新聞・ネットニュースへの接触率も高い。このような人々は、ニュース回避傾向が低い。注目すべきは 、クラス5の所属者である。SNSへの接触率が高いが、新聞・テレビ系(ハード・ソフトニュース)への接触率がかなり低いパターンを持つクラス5の所属者は、統計的有意にニュース回避傾向が高いことがわかる。

本稿では、SMPP調査から、人々のメディア接触状況とメディア利用に関連する意識を分析・検討した。主要な結果として、人々のメディア情報環境は、インターネット中心型の接触形態においても、伝統メディアへの接触を残すタイプとそうでないタイプと細分化されること、ニュース回避傾向はSNSを中心に接触し、伝統メディアへの接触率が極めて低いグループで特に高いことを確認した。

情報環境の多様化によってニュースの入手可能性は高まっているのにもかかわらず、ニュース回避傾向が見られることは、パーソナライズ化が進む情報環境において、民主主義に参加する市民の「共通の情報基盤」が失われつつあることを示唆しているのではないだろうか。このような「人々の生きているメディア環境の差異」が分断に関連するものであるのか、今後さらに検討が必要である。

■本連載の記事一覧はこちら

■SMPP調査・第1回概要


大森翔子(おおもりしょうこ) 法政大学社会学部専任講師

1993年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。2023年度より現職。専門は政治コミュニケーション・政治行動論。著書に『メディア変革期の政治コミュニケーション』(勁草書房、2023年)。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中