イエメン・フーシ派空爆は中東の緊張を高めるだけ、「ある条件」なしには成功しない理由
Igniting a Powderkeg
昨年11月、紅海航行中の貨物船ギャラクシー・リーダーに乗り込むフーシ派戦闘員 HOUTHI MILITARY MEDIAーREUTERS
<イエメン・フーシ派は、紅海で船舶への攻撃を続ける。米英軍はフーシ派への空爆作戦を行うが効き目はなく、ガザ戦争の拡大阻止という目標に逆行している>
アメリカとイギリスが、イエメンへの空爆に乗り出した。攻撃の標的は、イスラム教シーア派武装組織フーシ派だ。
イエメン内戦の当事者であるフーシ派は、昨年11月からアフリカ大陸とアラビア半島に挟まれた紅海で船舶への攻撃を続けている。
対抗措置として、米英軍は今年1月中旬に空爆作戦を開始。だが効き目はなく、フーシ派は今も紅海周辺で船舶を攻撃している。
さらに、フーシ派拠点への空爆継続によって、中東の緊張状態は間違いなく悪化する。
船舶攻撃はイスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの地上侵攻や封鎖措置を受けたもので、攻撃しているのはイスラエル関連の船舶だと、フーシ派は主張している。
イスラエルのガザ攻撃は国際社会の批判を浴び、中東では既にイスラエル寄りのアメリカの評判はガタ落ちだ。そうしたなか、今回のイエメン空爆は思いがけない結果を引き起こしつつある。
イエメン内戦は、世界で最も長引く紛争の1つだ。フーシ派が首都サヌアを制圧したのは2014年。
その後に勃発した内戦には対立する政権側とフーシ派以外にも、複数の勢力が加わった。
なかでも、政権を支援するサウジアラビアの介入と国境の封鎖措置は、イエメンが今も苦しむ飢餓・食料不安の一因になった。
内戦勃発当初から、フーシ派はイランの支援を受けている。イランの動機は、イデオロギーと地政学の両面だ。
フーシ派への軍事援助は否定しているものの、観測筋の一致した見解によれば、現在も兵器などの提供を続けている。
多国間の取り組みを無視
紅海とアデン湾を結ぶバベルマンデブ海峡にアクセスできるフーシ派は、イランにとって極めて重要な同盟相手だ。
この狭い海峡は、世界の海上貨物・原油輸送量の多くを扱う。同海峡を避けアフリカ回りの航路を取る選択肢はあるが、海運業者や船主、そして消費者のコスト負担が増える。
イスラエルのガザ攻撃以来、フーシ派によるバベルマンデブ海峡付近での船舶攻撃は増加した。
もっとも、昨年11月に紅海で貨物船を拿捕した事件を除けば、その大部分は不首尾に終わっている。
海賊行為は大昔から海上輸送の悩みのタネだ。だが現代では、多国的な枠組みによる対応で、その影響を抑え込むことにおおむね成功している。
ソマリア沖や東南アジア海域にあるマラッカ海峡では、多国間の取り組みのおかげで海賊の脅威は大幅に減った。
こうした成功例を考えれば、ロイド・オースティン米国防長官が昨年12月に発表した多国間イニシアチブは、紅海とアデン湾の安全保障や航行の自由の確保において現実的で、問題解決の見込みが高い対策だった。
ただし、この手の取り組みは効果が出るまでに時間がかかるが、アメリカは我慢できなかった。
米軍主導の空爆は「ある条件」なしには成功しない。
イエメンの近隣国、特にサウジアラビアの地上での圧力強化だ。だが、イエメンからの出口を探るサウジアラビアが協力することはないだろう。
中東でイスラエルへの怒りが高まり、フーシ派がイスラエル攻撃を宣言するなか、フーシ派との対決はサウジアラビア政府にとって政治的に危険な行為になりかねない。
中東でアメリカに協力する国はないと心得るフーシ派は、空爆後も紅海での船舶攻撃の継続を宣言し、その脅しを実行している。
ジョー・バイデン米大統領は、空爆は商船や艦船の保護に必要ではあるものの、期待した効果を上げていないと認める羽目に陥った。
攻撃の応酬が加速する
国際規範や国際法は、誰もが遵守する場合に限って有効だ。
アメリカによるイエメンの主権侵害ともいえる今回のケースのように、ある国が違反に踏み切ったとき、最も大きな脅威にさらされる。
その事実を浮き彫りにしたのが、米英による空爆後のイランの反応だ。
フーシ派を重要なパートナーに位置付けるイラン政府は、行動に出る必要があると考えたのか、イラクやシリアにミサイルでの越境攻撃を実施。
イラクへの攻撃は、イスラエル情報機関の拠点が標的だったと主張する。
中東の安定性に与える影響を考えれば不安になる出来事だが、それだけではない。イランは友好国であるパキスタン領内を空爆し、パキスタンによる報復攻撃を招いた。
幸いなことに、攻撃は国家に対するものではなく、互いの国を拠点とするテロ組織が標的だと、両国は強調する。
とはいえパキスタンでは、イムラン・カーン元首相が22年4月に軍部との対立で失職した後、政治的に不安定な状態が続いている。
2月に総選挙を控えるなか、弱腰というイメージを与えるのは軍部にとって論外で、事態がエスカレートする可能性は否めない。
イスラエルのガザ侵攻以来、ほぼ全ての関係者、特にアメリカは紛争の地域的拡大を阻止しようとしてきた。
だが今年に入ってからの出来事は、シリアの首都ダマスカスへのイスラエルの空爆や、親イラン武装組織によるイラクの空軍基地攻撃で駐留米軍兵士が負傷した事件と併せて、この目標の実現を難しくしている。
海上での多国間の取り組みを放棄して空からの攻撃に踏み切ったアメリカと同盟国は、うかつにも避けたかったはずの状況を自らつくり出しているのかもしれない。
James Horncastle, Assistant Professor and Edward and Emily McWhinney Professor in International Relations, Simon Fraser University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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