最新記事
2024米大統領選

「ルールなき世界」への転落を目前に、老人同士が座を争う「最後の機会」を見届ける...私たちは民主主義を救えるか?

ISSUES 2024: MAKING OR BREAKING DEMOCRACY

2023年12月28日(木)11時50分
マイケル・イグナティエフ(歴史家)

231226P18_IS_P18-21_04.jpg

再選を目指す現職のバイデン(写真)も復活を期すトランプも「アラウンド80」 DREW ANGERER/GETTY IMAGES

老人以外の選択肢がない現実

今度の選挙は、1960年代に成人に達した男同士が米大統領の座を争う最後の機会でもある。

この世代は東西冷戦下のアメリカで繁栄を謳歌し、冷戦の終結で勝利の美酒に酔ったのもつかの間、01年9月11日の同時多発テロで度肝を抜かれ、その後の20年、戦争と経済の地殻変動と格差拡大に振り回されてきた。

その間に国際秩序は崩壊し、次の世代に残されたのは山積みの難問のみ。気候変動、AI(人工知能)、新たな感染症の脅威、そして民主主義の深刻な機能不全などだ。

この世代はあまりに長く権力の座にしがみつき、後継者を育てるという大事な役割を果たさずにきた。その結果が、次の4年間を託す大統領選でこの世代の老人以外の選択肢がないという現実ではないか。

困ったことだが、絶望してはいられない。人に知恵と自制、謙虚と忍耐の美徳が残されている限り、希望はある。ただし新しい年に希望の兆しを見るためには、いくつかの条件が満たされなくてはならない。

アメリカはウクライナの支援を続け、ウクライナはロシアの侵略者を押し戻さねばならない。イスラエルはハマスを壊滅させねばならないが、ガザの再占領という罠に落ちてはならない。

ヨーロッパは自衛力強化の約束を果たさねばならない。中国は落日の属国ロシアと縁を切らねばならない。そしてインドやブラジル、南アフリカのような新興大国は、もっとモラルを尊重せねばならない。

私たちも現実を見つめて政治に参加し、人間の知恵を信じて行動しよう。一人一人の選択が大事だ。私たちは歴史という名の壮大なチェスの単なる駒ではない。私たちが誰を指導者に選ぶかで、数え切れないほどの人の生き死にが決まる。

今度の11月にアメリカの有権者が誰を選ぶかで、明日からの歴史が変わる。今はただ、彼らが賢い選択をすることを願おう。

©Project Syndicate

231226P18_IS_KAO_01.jpgマイケル・イグナティエフ(歴史家)
MICHAEL IGNATIEFF
ロシア系カナダ人の歴史家、76歳。ウィーン(オーストリア)の中央ヨーロッパ大学名誉学長、元カナダ自由党党首。著書に『仁義なき戦場』(邦訳・毎日新聞社)などがある。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中