最新記事
領土問題

中国が「隣国の国内」に居住区を建設、写真で明らかに...領土拡大の「既成事実化」に呑まれる小国ブータン

Satellite Images Show China Building Houses on Neighbor's Territory

2023年12月15日(金)17時40分
アーディル・ブラール

チベット専門家のクロード・アルピは、ブータンが中国の侵入を阻止する能力を持つかについて懸念を表明した。アルピは11日、NDTVで、「ブータン国王軍の力では、(中国人民解放軍や)国境防衛部隊を押し戻すことはできないし、新しい入植地の建設を阻止することもできない」と語っている。

このような状況によってブータンは現在、自国をはるかに上回る大国である中国との国境紛争で苦戦を強いられている。

侵入を食い止めるには領土を譲る取引しかない?

この状況を受けてインドは、自国と中国の国境問題にどんな戦略的影響があるかを分析するためにも、ブータンと中国の動向を注視している。中国とブータンの間で土地取引が行われれば、インドにも直接的な影響が及ぶ可能性があるためだ。

ブータンは長年、非同盟中立政策を外交の基本方針としており、国連安全保障理事会の理事国とは正式な外交関係を持たないという政策をとり続けている。そのためインドは伝統的に、アメリカとの関係を含むブータンの外交問題のパイプ役を務めてきた。しかし、中国政府は現在ブータンに、直接的な外交関係を結ぶよう働き掛けている。

ブータンのロティ・ツェリン首相は就任以降、中国との会談を積極的に推進している。ツェリンが国境交渉に関心を示していることは、中国の侵入を止めるには、取引を行う以外に選択肢がほぼないことを示唆している。

サイモンによれば、現在進行中の交渉は、ブータン北部の渓谷の状況を大きく左右する可能性があるという。ブータンが、ジャカラング渓谷とメンチュマ渓谷を中国に譲れば、ブータンの主権と領土保全が大きく損なわれる可能性がある、とサイモンは指摘する。

英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)の教授で、チベット史を専門とするロバート・バーネットは、NDTVの取材に対し、ブータンにとってこの地域は、宗教的・文化的に重要な意味を持つと述べている。

「ブータンの人々にとってジャカラング渓谷は、文化的・宗教的に重要な地域であるベユル・ケンパジョンに隣接している。つまり中国は最近、はるかに力の弱い隣国の文化的に重要な地域について、その隣国が対応の選択肢をほとんど持たないのをいいことに、根拠の疑わしい主張を強弁しているということだ」
(翻訳:ガリレオ)

20250311issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年3月11日号(3月4日発売)は「進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗」特集。ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニスト、29歳の「軌跡」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中