最新記事
世界経済

「コーヒー版OPEC」とは?...先進国3社の搾取からコーヒー生産国を守る唯一の道について

TIME FOR A COFFEE CARTEL?

2023年11月6日(月)14時35分
グン・リー(ソウル大学特別名誉教授〔経済学〕)
コーヒー

農家にはコーヒー1杯の小売価格の1%も入らない(ベトナム) MAIKA ELANーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<コーヒーの価格が高騰しても、生産国にはほぼ還元されていない。その支配と搾取の構造を変えるには、生産国が「カルテル」を設立する以外にはない>

近年、コーヒーの価格が高騰している。ブラジルやインド、ベトナムといった主要生産国で天候不順が続き、供給不足が起きているためだ。

しかし、消費者が日々飲んでいるコーヒーの価格が値上がりしても、コーヒー農家にはほとんど還元されていない。理由は交渉力不足にある。

1950年代以降、コーヒーは貿易額で世界トップレベルの商品だ。一時は石油に次いで第2位の取引額を誇り、多くの国が戦略的商品と見なしてきた。だが、コーヒー貿易には不平等が付きまとう。

グローバルサウスと呼ばれる途上国・新興国が輸出しているのは、付加価値の低い生豆や乾燥させたコーヒーなどの未加工品。ブラジル、コロンビア、ベトナム、インドネシア、エチオピアの5カ国を合わせると、市場シェアの約70%を占める。

一方、先進国は焙煎したコーヒー豆やインスタントコーヒーなど付加価値の高い加工品を輸出しており、スイス、ドイツ、イタリア、フランス、オランダの5カ国で市場の70%を占める。

さらに、世界のコーヒー市場は先進国のわずか3社(ネスレ、スターバックス、JDEピーツ)が支配し、この3社が業界大手10社の売り上げの77.7%を占めている。

加工品と非加工品の間には著しい価格差がある。平均で加工品は1キロ当たり14.30ドルだが、非加工品は2.40ドル。途上国の輸出額の割合が減少しているせいもあって、農家の手元に入る金額はコーヒー1杯の最終小売価格の1%にも満たない。

生産国がもっとコーヒーの加工に取り組めば問題は解決しそうだが、それには厄介な障害がいくつかある。まず、先進国がコーヒーの加工品の輸入に高い関税を課していることだ(EUは7.5〜9%、アメリカは10〜15%、日本は20%)。非加工品は関税対象になっていない。

途上国・新興国も関税は課しているが、加工品と非加工品との間に先進国ほどの差はない。ブラジルでは加工・非加工いずれの輸入品も関税は10%だ。

先進国主導の多国間銀行や研究機関は途上国・新興国に輸出品の付加価値を高めるよう提言するが、なかなかそうならないのは先進国の貿易政策も一因だ。

途上国・新興国の輸出業者が、先進国の消費者向けにブランド品を生産し直接販売する道もあり得る。付加価値でものをいうのは、やはりブランディングとマーケティングだ。

日本
【イベント】国税庁が浅草で「伝統的酒造り」ユネスコ無形文化遺産登録1周年記念イベントを開催。インバウンド客も魅了し、試飲体験も盛況!
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中