ファーウェイの新型スマホ「Mate60プロ」に米制裁対象のはずの先端半導体が使われていた。国産化に成功したのか?
Has China's Huawei Beaten US Chip Controls?
技術水準では、SMICは世界トップクラスの台湾の半導体メーカー・台湾積体電路製造(TSMC)に遠く及ばないが、中国政府は麒麟9000Sの開発を「カネに糸目をつけずに支援した」と、ミラーはみる。
「輸出規制で中国企業のコスト、特に高性能チップの開発コストが上昇したのは確かだが、SMICが実証してみせたように、中国政府が大枚をはたいてくれるから、回路幅7ナノメートルのスマホ用チップを量産することは可能なのだ」
米商務省は何よりもまず、アメリカの製品や技術が第三国経由で中国に流れる抜け穴を防ぐ必要があると、米シンクタンク・独マーシャル財団の一部門「民主主義を守るための同盟」の新興技術担当上級フェローのリンジー・ゴーマンは言う。SMICはそれを利用して麒麟9000Sの開発に必要な技術を入手した可能性があるからだ。
ゴーマンによれば、「麒麟9000Sは、中国企業がサプライチェーンの国産化に成功したことを示すというより、あちこちからかき集めた技術で引き続き先端半導体の開発を進めていることを示す」製品だ。
「厳しく管理されたアメリカの先端半導体の生産技術が、たまたま(再輸出の許可を必要としない)『許可例外』扱いされて、(第三国から中国に)渡った可能性はそう高くないと思うが、もしそうであれば、ただのミスでは済まされない。だがそれより可能性が高いのは、輸出規制が発効する前にSMICがせっせと装置を買い集めていたことだ」
転写技術の後れは挽回不可能
「中国もやがては(半導体生産に必要な装置の)国産化に成功するだろう」と、ゴーマンは予測する。だが、先端半導体の生産に特化した特殊な装置を入手できなければ、「それには非常に時間がかかり、その間に計算集約型のAI分野で民主主義陣営に大きく水を開けられる可能性が高い」というのだ。
世界最先端の露光装置を製造できるのは、オランダ企業のASMLのみ。中国政府は国産の半導体生産能力を高めて、アメリカとその同盟国への依存を減らすよう、国内企業に盛んに発破をかけているが、ASMLの技術を模倣することは、中国のテック企業には無理な相談だ。
中国の李強(リー・チアン)首相は9月、首都北京の露光装置メーカーを視察し、「特殊技術に特化した新興企業にとっては、イノベーションが全てだ。主力事業に集中し、忍耐強く刻苦勉励し、全社を挙げて科学・技術的イノベーションに邁進してほしい」と激励したと、国営テレビの中国中央電視台(CCTV)が伝えた。
中国最大手の半導体露光装置メーカーは上海にあるが、同社の装置が対応しているのは回路幅90ナノメートルまで。ASMLや日本のニコンの露光装置に比べると何世代も後れている。
米政府がどれほど輸出規制を徹底しても、中国企業は新たな抜け穴を見いだすだろう。しかしリソグラフィ技術の後れは、そう簡単には埋められそうにない。