最新記事
プロパガンダ

ロシアの新しい歴史教科書は陰謀論がてんこ盛り...ウクライナに関する嘘が満載──その驚愕の内容とは?

Indoctrinating Hate

2023年9月13日(水)12時40分
アレクセイ・コバリョフ(ベルリン在住ジャーナリスト)

歴史の抹殺もある。いい例がウクライナについての記述で、例えばクリミア半島は「昔から」ロシアのもので、その住民の「絶対的多数」は民族的ロシア人だとされている。だがクリミアでロシア人が多数派になったのは占領と「民族浄化」の結果だ。

1944年以降、当時の支配者スターリンは先住のタタール人に「ナチスの協力者」のレッテルを貼り、クリミア半島から追い出して辺境への移住を強いた。推定25万の女性や子供、老人が家畜運搬用の列車に詰め込まれ、中央アジアの各地に運ばれた。その途中、あるいは移住先で命を落とした人も多い。前線でナチスと戦ったタタール人の男たちは武装解除され、強制労働収容所に送られた。

新しい教科書は、この強制移住についてほんの少し触れているだけだ。タタール人の追放後に組織的な入植が行われ、無人になったクリミアの町や村、農地や家屋に民族的ロシア人が住みついた事実は都合よく省かれている。

ゴルバチョフ政権時代の89年には、一連の民族浄化を公式に「スターリン主義者による野蛮な行為」と認めた。しかし、プーチンのロシアは一貫して否定している。今度の教科書でも、政府は移住者に「適切な食事と住居を確保するために最大限の努力をした」とされている。

何もかもが西側の陰謀

60~70年代にかけての反体制運動についてはどうか。一定の検閲があり、息苦しかった事実にはさらっと触れている。しかし悪いのは検閲された芸術家や作家、映画監督や音楽家たちだと論じ、彼らが西側のメディアにこび、「表現の自由」を求めて亡命したせいだと非難している。

ひたすら自国の歴史を美化するだけの教科書だが、とりわけ奇怪なのは64年から70年代にかけてのブレジネフ政権時代へのノスタルジアだ。経済の停滞と過剰な拡張主義でソ連崩壊への道を付けた悲惨な時期だが、今度の教科書では工業化の進展と超大国としての地位向上、そして安定と相対的繁栄の時代として称賛されている。

消費財の慢性的不足で国民のニーズを満たせなかった事実は認めるが、ここでも悪いのは西側陣営で、映画や広告を通じて偽りの「西洋的生活のイメージ」をばらまき、大衆に非現実的な期待を抱かせたとされている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中、通商分野で歩み寄り 301条調査と港湾使用料

ビジネス

テスラの10月中国販売台数、3年ぶり低水準 シャオ

ビジネス

米給与の伸び鈍化、労働への需要減による可能性 SF

ビジネス

英中銀、ステーブルコイン規制を緩和 短国への投資6
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中