最新記事
処理水

処理水放出、なぜ中国だけが怒り狂う? 日本叩き「真の狙い」とは

Behind the Bashing

2023年9月5日(火)13時30分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)

上位者にいじめられた人間は自分よりも下位の人間をいじめて憂さを晴らすものだが、最下層に位置する人間はどうやって鬱憤を晴らすのか。そう、サンドバッグ代わりの対象を攻撃するのだ。

共産党支配が始まった当初は地主が「人民の敵」としてサンドバッグになった。その後は「資本主義に走る特権的官僚」のレッテルを貼られた鄧小平ら「走資派」がその役目を果たし、鄧の時代、そして今の習近平(シー・チンピン)時代には、「小日本」がたたかれることとなった。

皮肉なことに、抑圧された人々はその時代のサンドバッグをたたきまくって憂さ晴らしをする一方で、深層心理ではたたく対象にひそかに憧れている。貧しい農民は建前としては地主の不当な搾取を非難しつつ、本音では毛沢東式の農業の集団化に不満を抱き、自分も農地を所有したいと思っていた。走資派を目の敵にしていた人々も鄧が市場経済を導入するや、われ先にと起業し、投資を行った。

処理水問題で嫌がらせ電話をかけまくった中国人も、日本に観光に行きたいと思い、日本製品を爆買いしたいと思っている。それでも日々の現実に戻れば、日本たたきをして習政権の体制維持に貢献し、エゴを満足させるのだ。日頃から鬱憤がたまっていれば、大使館に投石して愛国的ヒーローとたたえられることに喜びを見いだすようになる。

ただ、際限なき日本たたきは「ブーメラン」になる恐れもある。現地のトヨタ工場やイオンモールに人々が石を投げすぎて困るのは誰か?

しかしその点の心配は要らない。そうなる前に党指導部はブレーキをかける。間違ってはいけないのは、反日デモは自然発生的に見えるかもしれないが、実際は入念に演出されたものであるということ。党は草の根レベルの党細胞によって統制された「愛国組織」を通じて暴発を操作し、微調整することができる。

「中国民間対日索賠連合会」「中国民間保釣連合会」などがそれに当たる。名目上はNGOだが、実際は党によって厳しく管理されている。そしてこれらの組織は反日活動に熱心になりすぎて暴走すれば、解散させられる。

いい例が「愛国者同盟網」だ。「毛左(毛沢東を妄信する急進左派)」として知られるネット上の組織だが、03年に上海〜北京間の高速鉄道への日本の新幹線の導入阻止に一役買った。当時の党指導部(胡錦濤〔フー・チンタオ〕国家主席と温家宝〔ウエン・チアパオ〕首相)は日本の技術を好んでいたにもかかわらず同盟網が珍しく勝利を収めたが、その後解散に追い込まれた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ、今月初めの米軍による攻撃で兵士47人死

ワールド

EU、重要インフラでの中国製機器の使用を禁止へ=F

ワールド

イラン抗議デモ、死者3000人超と人権団体 街中は

ワールド

韓国、米のAI半導体関税の影響は限定的 今後の展開
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち
  • 2
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手がベネズエラ投資に慎重な理由
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 5
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 6
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    日中関係悪化は日本の経済、企業にどれほどの影響を…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 10
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中