エセ科学に頼って命を落とすロシア富豪が続出、ウクライナ戦争の緊張と不安の犠牲か
Russian Elites Keep Getting Themselves Killed With Alternative Medicine
現実逃避でブードゥー教にはまる富豪もいる(写真はイメージです) Atomazul-shutterstock.
<ウクライナ侵攻のおかげで暗く歪んだ日々を送るロシア。プーチン自身も、ある動物の血の風呂に入っているとか>
ロシアの著名なエリートが、自らの心身不調について代替的な治療手段に救いを求めた結果、亡くなるケースが相次いでいる。背景には、ウラジーミル・プーチン大統領が主導するウクライナでの戦争が続いて先が見えないなかで、スピリチュアルな事物や神秘主義への関心が増しているという事情がある。
プーチンがウクライナへの本格侵攻を開始してからの1年5カ月の間に、ロシアでも有数の富豪が複数名、命を落としている。うち少なくとも2件では、支配層に属する人物がキセノン吸入療法が原因で死亡している。
キセノンは毒性のないガスで、鎮静および鎮痛作用を持つことで知られており、ロシアでは、不安障害やうつ病の治療法として一部に人気がある(アメリカの食品医薬品局[FDA]はこうした用途では認可していない)。
7月22日には、ハイテク起業家のアントン・チェレペニコフ(40歳)が、モスクワにある自らのオフィスで死亡しているのが発見された。死因は「医療用ガス」の過剰摂取と伝えられている。チェレペニコフは、ロシア最大のIT企業、ICSホールディングスのトップで、プーチンの盗聴オペレーションをほぼ一手に引き受けていた人物。
不安障害の治療のために?
ロシアの報道機関によると、チェレペニコフの死因は今のところ心不全とされている。しかし法執行機関の情報筋は、ロシアメディアのRTVIに対し、チェレペニコフは「薬効を得るために」服用していた医療用ガスを過剰摂取したと伝えた。本当の死因はいまだ捜査中で、ニューズウィークではこの情報源の主張の裏付けを取ることはできなかった。
1年前の2022年7月には、プーチン政権でトップクラスの武器設計者だったドミトリー・コノプレフが、キセノン吸入療法を受けている最中に死亡したと、ロシアの独立系新聞ノーバヤ・ガゼータが報じた。
「ドミトリー・コノプレフは、酸素マスク治療の最中に死亡した。彼は、頭痛と不安障害を治療するため、キセノンを吸入していた。医師たちはいまだに死因を確定できていない」と、ロシアのテレグラム・チャンネル「マッシュ」は当時伝えていた。
ロシアの週刊タブロイド紙「エクスプレス・ガゼータ」は、ロシア国内では、スターや実業家が「ストレスと不安を緩和する風変わりなこの療法」にすっかり夢中になっていると、雑誌「タトラー・ロシア」のアリアン・ロマノフスキー元編集長の発言を伝えた。ガゼータ紙の記事によると、キセノン吸入療法の費用は、1回6万ルーブル(約9万4000円)に達することもあるという。