最新記事
ロシア

エセ科学に頼って命を落とすロシア富豪が続出、ウクライナ戦争の緊張と不安の犠牲か

Russian Elites Keep Getting Themselves Killed With Alternative Medicine

2023年7月25日(火)19時17分
イザベル・ファン・ブリューゲン

現実逃避でブードゥー教にはまる富豪もいる(写真はイメージです) Atomazul-shutterstock.

<ウクライナ侵攻のおかげで暗く歪んだ日々を送るロシア。プーチン自身も、ある動物の血の風呂に入っているとか>

ロシアの著名なエリートが、自らの心身不調について代替的な治療手段に救いを求めた結果、亡くなるケースが相次いでいる。背景には、ウラジーミル・プーチン大統領が主導するウクライナでの戦争が続いて先が見えないなかで、スピリチュアルな事物や神秘主義への関心が増しているという事情がある。

プーチンがウクライナへの本格侵攻を開始してからの1年5カ月の間に、ロシアでも有数の富豪が複数名、命を落としている。うち少なくとも2件では、支配層に属する人物がキセノン吸入療法が原因で死亡している。

キセノンは毒性のないガスで、鎮静および鎮痛作用を持つことで知られており、ロシアでは、不安障害やうつ病の治療法として一部に人気がある(アメリカの食品医薬品局[FDA]はこうした用途では認可していない)。

7月22日には、ハイテク起業家のアントン・チェレペニコフ(40歳)が、モスクワにある自らのオフィスで死亡しているのが発見された。死因は「医療用ガス」の過剰摂取と伝えられている。チェレペニコフは、ロシア最大のIT企業、ICSホールディングスのトップで、プーチンの盗聴オペレーションをほぼ一手に引き受けていた人物。

不安障害の治療のために?

ロシアの報道機関によると、チェレペニコフの死因は今のところ心不全とされている。しかし法執行機関の情報筋は、ロシアメディアのRTVIに対し、チェレペニコフは「薬効を得るために」服用していた医療用ガスを過剰摂取したと伝えた。本当の死因はいまだ捜査中で、ニューズウィークではこの情報源の主張の裏付けを取ることはできなかった。

1年前の2022年7月には、プーチン政権でトップクラスの武器設計者だったドミトリー・コノプレフが、キセノン吸入療法を受けている最中に死亡したと、ロシアの独立系新聞ノーバヤ・ガゼータが報じた。

「ドミトリー・コノプレフは、酸素マスク治療の最中に死亡した。彼は、頭痛と不安障害を治療するため、キセノンを吸入していた。医師たちはいまだに死因を確定できていない」と、ロシアのテレグラム・チャンネル「マッシュ」は当時伝えていた。

ロシアの週刊タブロイド紙「エクスプレス・ガゼータ」は、ロシア国内では、スターや実業家が「ストレスと不安を緩和する風変わりなこの療法」にすっかり夢中になっていると、雑誌「タトラー・ロシア」のアリアン・ロマノフスキー元編集長の発言を伝えた。ガゼータ紙の記事によると、キセノン吸入療法の費用は、1回6万ルーブル(約9万4000円)に達することもあるという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中