香港政府、反対勢力の弾圧を海外にまで拡大...亡命民主活動家にかけた懸賞金は「自警主義」を助長
Bounty Justice
香港の民主活動家の羅ら8人に懸賞金が(写真は20年) MICHELE TANTUSSIーREUTERS
<海外に逃れた8人を指名手配、中国寄りの国が「超法規措置」を取るかも>
香港政府は、反体制派に対する弾圧を海外にまで拡大し始めた。7月3日、香港警察が国外亡命中の民主活動家ら8人の逮捕状を取り、1人100万香港ドル(約1800万円)の懸賞金をかけると発表したのだ。
指名手配されたのは、現在オーストラリア、アメリカ、イギリスなどで暮らす民主活動家だ。イギリスに亡命した元議員の羅冠聡(ネイサン・ロー)をはじめ、元議員や弁護士、活動家といった面々だ。
これは、2014年に香港で起きた民主化デモ「雨傘運動」のリーダーら9人に対する19年の裁判を彷彿させる。この時、学者、政治家、活動家ら全員が有罪判決を受けた。7月3日に出された懸賞通告書に掲載されたのは、銃を振り回す無法者ではなく、愛想のいいインテリタイプの人々の顔写真だった。
香港警察の言い分は、彼らが香港における政治的抑圧を止めるために制裁を呼びかけたことは、「極めて重大な罪」に当たるというもの。香港国家安全維持法(国安法)では「国家権力の転覆」とされ、最長で終身刑が科される。
国安法は中国政府が起草。19年に香港で発生し、長期化した大規模な民主化デモを受けて香港に適用された。これらのデモは皮肉にも、香港の自治が崩壊しつつあるとの懸念から起きたものだった。
国安法の不可解な特徴が、「域外適用」だ。国籍を問わず、世界のあらゆる場所でこの法律に違反した者に適用されると主張している。
だが、香港政府が現実にそうした人々を裁判にかけることができるかは別の問題だ。
犯罪人の引き渡しに関する国際法には保護措置があり、その犯罪行為が双方の場所で重大なものでなければならず、また、政治犯は対象にならない。今回の逮捕状の容疑について、香港政府は国家安全保障に関わると誇張しているが、この2つの基準を満たしていない。
「海外警察」で監視強化
標的となった民主活動家らは香港を離れる際、自分たちの行く末を見据えていたはずだ。おそらく香港に戻ることはないと考えていただろうし、その悲しい現実を既に受け入れているかもしれない。
それに加えて、今や彼らは香港または中国と犯罪人引き渡し条約を結んでいる国への渡航も控えたほうがいいかもしれない。
彼らにとってのリスクは正式な逮捕や身柄引き渡しにとどまらない。懸賞金が自警主義を助長し、香港政府寄りの外国政府が亡命中の8人の超法規的な身柄引き渡しに目をつぶったり、手助けをしたりする可能性すらある。
国外の反体制派の存在は、中国政府にとって長年の頭痛のタネだった。そこで近年は国外の中国人を監視し、影響力を行使する姿勢を強めている。情報収集や監視、脅迫の拠点として、ヨーロッパや北米などに極秘の「海外警察」まで設置している。
かつては中国と香港は政治的に異なる存在だったが、過去10年で中国本土と香港の間の「防火壁」は徐々に崩壊した。香港政府と政治制度からは民主的な要素が取り除かれ、国家安全保障と法執行機関は今や本土の支配下にある。
香港社会は今、法律、政治、教育、メディアに対する抑圧を通して服従させられている状態だ。今回の逮捕状も、中国が反体制派への締め付けを緩めないことを示すものだ。
結局は、8人への逮捕状は度を過ぎた無駄な行為に終わるかもしれない。彼らのためにもそうなることを願うばかりだ。しかし、逮捕の行方にかかわらず、その背後にある意図は非難されるべきだ。民主主義社会の中核を成す、自由を脅かすものだからだ。
Brendan Clift, Lecturer, The University of Melbourne
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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