最新記事
香港

香港政府、反対勢力の弾圧を海外にまで拡大...亡命民主活動家にかけた懸賞金は「自警主義」を助長

Bounty Justice

2023年7月10日(月)13時00分
ブレンダン・クリフト(メルボルン大学講師)
香港の民主活動家

香港の民主活動家の羅ら8人に懸賞金が(写真は20年) MICHELE TANTUSSIーREUTERS

<海外に逃れた8人を指名手配、中国寄りの国が「超法規措置」を取るかも>

香港政府は、反体制派に対する弾圧を海外にまで拡大し始めた。7月3日、香港警察が国外亡命中の民主活動家ら8人の逮捕状を取り、1人100万香港ドル(約1800万円)の懸賞金をかけると発表したのだ。

指名手配されたのは、現在オーストラリア、アメリカ、イギリスなどで暮らす民主活動家だ。イギリスに亡命した元議員の羅冠聡(ネイサン・ロー)をはじめ、元議員や弁護士、活動家といった面々だ。

これは、2014年に香港で起きた民主化デモ「雨傘運動」のリーダーら9人に対する19年の裁判を彷彿させる。この時、学者、政治家、活動家ら全員が有罪判決を受けた。7月3日に出された懸賞通告書に掲載されたのは、銃を振り回す無法者ではなく、愛想のいいインテリタイプの人々の顔写真だった。

香港警察の言い分は、彼らが香港における政治的抑圧を止めるために制裁を呼びかけたことは、「極めて重大な罪」に当たるというもの。香港国家安全維持法(国安法)では「国家権力の転覆」とされ、最長で終身刑が科される。

国安法は中国政府が起草。19年に香港で発生し、長期化した大規模な民主化デモを受けて香港に適用された。これらのデモは皮肉にも、香港の自治が崩壊しつつあるとの懸念から起きたものだった。

国安法の不可解な特徴が、「域外適用」だ。国籍を問わず、世界のあらゆる場所でこの法律に違反した者に適用されると主張している。

だが、香港政府が現実にそうした人々を裁判にかけることができるかは別の問題だ。

犯罪人の引き渡しに関する国際法には保護措置があり、その犯罪行為が双方の場所で重大なものでなければならず、また、政治犯は対象にならない。今回の逮捕状の容疑について、香港政府は国家安全保障に関わると誇張しているが、この2つの基準を満たしていない。

「海外警察」で監視強化

標的となった民主活動家らは香港を離れる際、自分たちの行く末を見据えていたはずだ。おそらく香港に戻ることはないと考えていただろうし、その悲しい現実を既に受け入れているかもしれない。

それに加えて、今や彼らは香港または中国と犯罪人引き渡し条約を結んでいる国への渡航も控えたほうがいいかもしれない。

彼らにとってのリスクは正式な逮捕や身柄引き渡しにとどまらない。懸賞金が自警主義を助長し、香港政府寄りの外国政府が亡命中の8人の超法規的な身柄引き渡しに目をつぶったり、手助けをしたりする可能性すらある。

国外の反体制派の存在は、中国政府にとって長年の頭痛のタネだった。そこで近年は国外の中国人を監視し、影響力を行使する姿勢を強めている。情報収集や監視、脅迫の拠点として、ヨーロッパや北米などに極秘の「海外警察」まで設置している。

かつては中国と香港は政治的に異なる存在だったが、過去10年で中国本土と香港の間の「防火壁」は徐々に崩壊した。香港政府と政治制度からは民主的な要素が取り除かれ、国家安全保障と法執行機関は今や本土の支配下にある。

香港社会は今、法律、政治、教育、メディアに対する抑圧を通して服従させられている状態だ。今回の逮捕状も、中国が反体制派への締め付けを緩めないことを示すものだ。

結局は、8人への逮捕状は度を過ぎた無駄な行為に終わるかもしれない。彼らのためにもそうなることを願うばかりだ。しかし、逮捕の行方にかかわらず、その背後にある意図は非難されるべきだ。民主主義社会の中核を成す、自由を脅かすものだからだ。

The Conversation

Brendan Clift, Lecturer, The University of Melbourne

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


編集部よりお知らせ
ニュースの「その先」を、あなたに...ニューズウィーク日本版、noteで定期購読を開始
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GDPギャップ、25年4―6月期は需要超2兆円=内

ビジネス

午後3時のドルはドル147円付近、売り材料重なる 

ワールド

ロシア、200以上の施設でウクライナの子どもを再教

ワールド

アングル:米保守活動家の銃撃事件、トランプ氏が情報
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中