最新記事
中国

LNGを買い占めた中国...過去18年間の取引を検証、浮かび上がった2つの重要テーマ

China’s Big Gas Bet

2023年6月21日(水)12時30分
スティーブン・マイルズ(米ライス大学ベーカー公共政策研究所フェロー)、ガブリエル・コリンズ(同研究所フェロー)

ガスプロムは供給削減

第2に、中国の独占によって短期的なLNGの供給が吸い取られている。中国企業がアメリカ、カタール、ロシアのサプライヤーと締結した契約(該当期間の取引総量の90%)は、供給開始予定が1~2年以内だ。それ以前に中国企業が契約した新規のLNGプロジェクトのほとんどは、供給開始が3~5年先だった。

重要なのはその背景だ。中国の買い占めによって短期で供給可能なLNGが消えるなか、ロシア国営企業のガスプロムは、21年に欧州へのガス供給を削減。欧州のガス貯蔵量の約25%を占める同社は、21~22年の冬に同地域での貯蔵量をほぼゼロにしている。

22年2月下旬にロシアの侵攻が始まると、ガスプロムはヨーロッパ向けの天然ガスの供給を止めると脅した。そして実際に、ヨーロッパの天然ガス供給の最大約40%を占めていたロシアのパイプライン経由分が、ほぼ全て止まった。

ヨーロッパは節約や燃料転換を進め、22年1~4月にアメリカが輸出したLNGの74%を輸入するなど、ロシアのエネルギー恐喝に対処した。しかし、天然ガスや電力の価格は高騰し、ヨーロッパは大きな代償を払うことになった。

欧州が被る長期的不利益

この問題は現在進行形で、戦略上、大きな意味を持つ。中国は21年の終わりから22年の初めにかけて、国有のガス輸入会社にLNGの買い占めを指示した。戦争前のノルドストリーム1(ロシアからバルト海経由で天然ガスを運ぶパイプライン)の供給量の約60%に相当する量だった。

中国に好意的な解釈をすれば、中国の政治家や企業がヨーロッパ向けの天然ガスとLNGの価格が高騰すると予想したタイミングに合わせて、買い占めたとも考えられる。しかし、世界有数の商品取引会社や優秀なLNGトレーダーが、21年9月~22年2月の市場機会にはほとんど反応しなかったが、侵攻開始後はLNG契約の主な原動力になっていることを見れば、中国が優秀なトレーダーだったという説明も色あせて見える。

中国で新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が解除されることを見越して、中国のバイヤーが追加のエネルギー供給を確保するために動いたという見方もある。しかし、中国のゼロコロナ政策はさらに1年続き、22年11月と12月に大規模な抗議デモが発生した後に突然解除されたことから、計画的だったとは言い難い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

都区部コアCPI、1月は+2.5%に伸び拡大 生鮮

ビジネス

失業率12月は2.4%に改善、就業者増加 求人倍率

ビジネス

日経平均は小幅続伸で寄り付く、米株高を好感 ハイテ

ビジネス

米ビザ10─12月期、利益が予想上回る 年末消費が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中