LNGを買い占めた中国...過去18年間の取引を検証、浮かび上がった2つの重要テーマ
China’s Big Gas Bet
ガスプロムは供給削減
第2に、中国の独占によって短期的なLNGの供給が吸い取られている。中国企業がアメリカ、カタール、ロシアのサプライヤーと締結した契約(該当期間の取引総量の90%)は、供給開始予定が1~2年以内だ。それ以前に中国企業が契約した新規のLNGプロジェクトのほとんどは、供給開始が3~5年先だった。
重要なのはその背景だ。中国の買い占めによって短期で供給可能なLNGが消えるなか、ロシア国営企業のガスプロムは、21年に欧州へのガス供給を削減。欧州のガス貯蔵量の約25%を占める同社は、21~22年の冬に同地域での貯蔵量をほぼゼロにしている。
22年2月下旬にロシアの侵攻が始まると、ガスプロムはヨーロッパ向けの天然ガスの供給を止めると脅した。そして実際に、ヨーロッパの天然ガス供給の最大約40%を占めていたロシアのパイプライン経由分が、ほぼ全て止まった。
ヨーロッパは節約や燃料転換を進め、22年1~4月にアメリカが輸出したLNGの74%を輸入するなど、ロシアのエネルギー恐喝に対処した。しかし、天然ガスや電力の価格は高騰し、ヨーロッパは大きな代償を払うことになった。
欧州が被る長期的不利益
この問題は現在進行形で、戦略上、大きな意味を持つ。中国は21年の終わりから22年の初めにかけて、国有のガス輸入会社にLNGの買い占めを指示した。戦争前のノルドストリーム1(ロシアからバルト海経由で天然ガスを運ぶパイプライン)の供給量の約60%に相当する量だった。
中国に好意的な解釈をすれば、中国の政治家や企業がヨーロッパ向けの天然ガスとLNGの価格が高騰すると予想したタイミングに合わせて、買い占めたとも考えられる。しかし、世界有数の商品取引会社や優秀なLNGトレーダーが、21年9月~22年2月の市場機会にはほとんど反応しなかったが、侵攻開始後はLNG契約の主な原動力になっていることを見れば、中国が優秀なトレーダーだったという説明も色あせて見える。
中国で新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が解除されることを見越して、中国のバイヤーが追加のエネルギー供給を確保するために動いたという見方もある。しかし、中国のゼロコロナ政策はさらに1年続き、22年11月と12月に大規模な抗議デモが発生した後に突然解除されたことから、計画的だったとは言い難い。