最新記事
難民

入管を責め難民を拒む矛盾...入管法改正問題の根本は「国民自身」にある

Facing the Consequences

2023年6月20日(火)13時40分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー、イラン出身)

ましてや、難民はビザやIDカードなど自分を証明するものを出身国に置いてきている場合が多い。自分に起こったこと・起こり得たことを証明するものも持ち合わせてなどいない。

だからこそ彼ら彼女らは難民なのであるが、何の証拠も持たない人を、この手引でどの程度まで難民認定できるのか。難民支援を行う弁護士の集まりである全国難民弁護団連絡会議も「基準として厳しすぎたり、運用によって難民として認められる範囲が狭められたりするおそれ」があると指摘している。

ただ多くの難民を受け入れている国でも状況は同じで、自分を証明するものを何も持たない難民申請者がたくさんやって来る。だがドイツの年間難民認定者は5万3973人、カナダの難民認定率は51.18%である。対して日本での認定者は44人、申請者のうちの0.29%しか認定されていない(いずれも19年の国連、法務省のデータ)。

ではドイツやカナダが特殊なスキルを持って難民認定をしているかというとそんなことはなく、難民条約の規定に「合いそうな」場合は認定することにしているようだ。つまり日本のような厳格な審査はしていない。

日本は難民条約違反?

私の知り合いもドイツで難民申請をしたが、審査には約1年かかった。審査の間ドイツ政府が用意した施設に住み、仕事をすることができずストレスも多かったようだが(難民の多くは、仕事をして経済的に独立することを強く望んでいる)、難民と認定され滞在許可をもらい、その後EUの市民権を得た。

彼は迫害されたことの証拠を出身国からほとんど持ち出せなかったため、日本の難民該当性の判断基準では、難民と認定されるのは難しかったと思う。

だがドイツは難民かもしれない、と考えられる人は積極的に認定する。厳格な審査ではたくさんの申請者を審査し切れず、本当の難民を認定から取りこぼしてしまうリスクが大きい、人道的に問題があると考えているのだ。

では日本がドイツやカナダのように、難民を積極的に受け入れる政策を掲げる党が政権を取る日は来るのだろうか。いや、そのような日は来ないだろう。今までの経緯から考えて、国民の大多数の賛成が得られるとは思えない。

それなのになぜ日本は難民条約を批准しているのか。70年代のインドシナ難民流出が直接の契機ということだが、その背後には大国としてのメンツや体裁があったのだろうか。ならば海外メディアや海外NGOに批判されるような少ない難民認定数では逆効果であるし、ましてや収容施設での死亡事件は日本のイメージダウンでしかない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、東部要衝都市を9割掌握と発表 ロシアは

ビジネス

ウォラーFRB理事「中銀独立性を絶対に守る」、大統

ワールド

米財務省、「サハリン2」の原油販売許可延長 来年6

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 10
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中