元ドイツ空軍パイロットは中国で何をしているのか? 大スキャンダルの背景にある「中国軽視」
Still Naïve on China
ドイツと中国には軍事協力の歴史があるが(写真はドイツのトーネード戦闘機) FABIAN BIMMERーREUTERS
<昨年の英軍に続き、独軍の元パイロットが中国空軍に戦術や機密情報を漏らした疑惑が発覚。かつて米軍パイロットが中国に空母着陸技術を教示したことで起訴されているが...>
ドイツ空軍と中国空軍の間には、長い協力の歴史がある。ナチス・ドイツは1930年代、中国(当時は国民党率いる中華民国)に軍事顧問を派遣し、毛沢東率いる共産党軍と日本軍という2つの敵と戦う政府軍の空軍創設と訓練に協力した。
それでも今年6月2日、独シュピーゲル誌に掲載された「元ドイツ空軍パイロットは中国で何をしているのか」という記事は衝撃的だった。かつてドイツ空軍で戦闘機を操縦していた数人の元軍人が、10年ほど前から中国空軍の訓練に協力しているというのだ。
シュピーゲルは「彼らが軍事的な専門知識や戦術上の機密情報を(中国空軍に)伝えたり、台湾侵攻などのシナリオで訓練したりしている可能性は非常に高い」というドイツ安全保障当局者のコメントを紹介している。
例えば、元パイロットたちは冷戦時代とその直後にドイツ空軍が得意とした、敵防空網の制圧(SEAD)と破壊(DEAD)のノウハウを教えた可能性がある。もしも台湾有事が起きて、中国が制空権を握ろうとするとき、この知識は大いに役に立つはずだ。
実際、第2次大戦後のドイツ空軍の唯一の実戦経験は99年のコソボ紛争だが、NATO軍のユーゴスラビア空爆に参加し、電子戦機を使ってユーゴの防空網を破壊した。
ほかにも、ドイツの元軍人たちはさまざまなことを中国軍に教えたかもしれない。
NATOの航空作戦における戦闘機の編成や装備体系もその1つだ。中国が台湾の防空網を制圧するときも、複数のタイプの戦闘機による航空部隊が編成され、巡航ミサイルやドローンを駆使した作戦全体に統合されるだろう。
このような作戦は複雑な要素を考慮して立案・実行する必要があり、歴史が浅い中国空軍にはとりわけ困難なはず。それだけに、NATO軍という潜在的な敵の戦術は、中国にとって貴重な情報だ。
中国の脅威に無頓着
これに先立つ2022年10月には、元英空軍パイロット「少なくとも30人」が、中国空軍に助言を与えているという報道があった。こちらも中国のパイロットたちに、NATO軍の戦術や欧米諸国の戦闘教義を教えていたらしい。
ドイツやイギリスの元パイロットたちが、軍事という極めてセンシティブな領域で、個人ベースで長期にわたり中国に協力できた背景には、ヨーロッパの中国に対する甘い認識がある。