裏切られたアメリカの安全保障──ウクライナ核放棄のケース
Bill Clinton: My Nuke Deal To Blame for Russia's Invasion of Ukraine
歴史的な核放棄に合意した3カ国首脳──(左から)クリントン、エリツィン、ウクライナのクラフチュク大統領(1994年1月14日)
<ウクライナに核兵器があればロシアの侵攻はなかっただろう。それでも放棄したのは、アメリカとイギリスとそしてロシアが国境の安全を保証したからだ>
ビル・クリントン米元大統領が、ウクライナがロシアの侵略を受けていることに「個人的な関わり」、つまり責任を感じていると語った。冷戦終結後、核兵器を放棄するようウクライナを説得したのはクリントンだからだ。
クリントンはアイルランドの公共放送「RTÉ」のインタビューの中で、「これは個人的に関わりのある問題だと感じている。ウクライナに核兵器の放棄に合意させたのは私だからだ」と述べた。「ウクライナが今も核兵器を保有していたら、ロシアがウクライナ侵攻という大胆な行動に出ることはなかっただろう」
ソ連崩壊後も、ウクライナ領内には旧ソ連時代に配備された大量の核兵器が残されていた。1994年、ウクライナは核拡散防止条約(NPT)に加盟し、領内にある核兵器を放棄することに合意した。
ウクライナが今も核兵器を保有していたら、2022年2月にロシア軍のウクライナ侵攻はなかったと考える者もいる。ウクライナ議会のオレクシー・ゴンチャレンコ議員は以前、ロシアとの戦闘が本格化した時に米FOXニュースに対し、「ウクライナはかつて世界3位の核兵器大国だった。それを1994年に放棄した。そんな国は人類史上、ウクライナしかない」と語った。
米英ロは安全を保障を約束した
ゴンチャレンコはさらに、ウクライナ政府が核を放棄したのは「アメリカ、イギリスとロシアによる保障があったから」だとつけ加えた。「あの保障はどこに行ったのか。今、ウクライナは爆撃を受け、人々が殺されている」
だが一方には、たとえウクライナが核兵器を手放さなくても、今回の戦争の流れを変えることはできなかっただろうと反論する専門家もいる。英ロンドン大学キングズ・カレッジで拡散金融を専門とするクララ・ゲスト研究助手は2022年3月、冷戦後に独立したばかりだったウクライナには資金が不足しており、「(国内に残っていた)核兵器および関連施設の維持や、新たな部品の製造を行うことはできなかっただろう」と指摘した。
1994年1月、クリントンとロシアのボリス・エリツィン大統領(当時)とウクライナのレナ・クラフチュク大統領(当時)が「3カ国声明」に署名。その後さらに「ブダペスト覚書」によって、ロシア、アメリカとイギリスがウクライナに対して、核兵器の放棄と引き換えに安全保障を約束した。
「ウクライナに核兵器を放棄させるためにエリツィンが合意した領土保全を、プーチン大統領が支持していないことは分かっていた」とクリントンは語った。