最新記事
ウクライナ情勢

国際関係論の基礎知識で読む「ウクライナ後」の世界秩序

THE POTENTIAL FOR CONFLICT

2023年3月3日(金)18時00分
マシュー・クレイニグ(大西洋評議会スコウクロフト国際安全保障センター副所長)

230307p18_PTU_03.jpg

写真は米軍の空母 YARA NARDIーREUTERS

その一方で、中国もリベラリズム世界とのデカップリングを図っている。例えば習は、欧米諸国に機密情報が漏れることを懸念して、中国のテクノロジー企業がアメリカの株式市場に上場することを禁じた。このように、紛争を防ぐバラスト(安定器)の役割を果たしてきた経済の相互依存は、今や失われつつある。

イデオロギー対立への回帰

民主主義は平和的な秩序をもたらすという理論は、民主主義国同士が協力し合う傾向を前提にしている。だが現代の国際システムの問題は、民主主義と独裁主義の間に断層線が生じていることだ。

確かにアメリカは今も、サウジアラビアなどの非民主主義国と友好的な関係を維持している。しかし国際システムは、アメリカやNATOや日本といった従来の秩序を維持したい民主主義国と、中国やロシア、イランといった修正主義的な独裁国家との間で分断されつつある。

社会構成主義者は、現在の国際規範には平和をもたらす効果があると言うが、そもそもこうした規範は万国共通なのかという疑念が常にあった。中国が新疆ウイグル自治区でジェノサイド(民族大量虐殺)を働き、ロシアが核の使用をちらつかせ、戦争捕虜たちに言語道断の虐待を働いているのを見れば、こうした規範が万国共通でないことは明らかだ。

習やプーチンの演説や著述は、イデオロギー的な表現を使って、独裁体制の優位や民主主義の欠陥を列挙することが多い。私たちは、民主主義体制と独裁体制のどちらが国民をより満足させられるかという、20世紀の対立に戻りつつある。

現代の国際政治を理解する最善の方法は、複数の理論を組み合わせることだろう。世界の大部分は自由主義的な秩序を好む傾向があるが、その秩序は、アメリカと民主主義同盟国の軍事力によって初めて実現・維持される。古代ギリシャ以来の歴史を見る限り、こうしたハードパワーの競争は民主主義の勝利に終わる傾向があり、独裁体制は悲惨な末路を迎える可能性が高い。問題は、正義に向けて歴史の舵を大きく切る瞬間は往々にして大国間の戦争の後に訪れることだ。

現在の大学1年生が卒業するとき、第3次世界大戦の始まりを振り返る事態にならないことを祈りたい。国際関係論を学べば学ぶほど、世界には懸念すべき材料が増えるのだ。

From Foreign Policy Magazine

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中