最新記事

医療

コロナ後遺症は食事で改善できる? 推奨される食品、科学的根拠を検証

Long COVID and Diet

2023年2月16日(木)11時20分
サミュエル・ホワイト(英ノッティンガム・トレント大学)、フィリップ・ウィルソン(英ノッティンガム・トレント大学)
コロナ

さまざまな野菜と魚介類を組み合わせた食事は体に優しいとされる PHOTO ILLUSTRATION BY YUKAKO NUMAZAWAーNEWSWEEK JAPAN; SOURCE ILLUSTRATIONS: PILLI/ISTOCK, IULIIA KANIVETS/ISTOCK, TENNY TENG/ISTOCK, IRINA MIRONOVA/ISTOCK (2)

<頭痛や倦怠感の原因とされる炎症の慢性化、それを止めるとちまたで話題の3つの食事法を検証する>

新型コロナウイルスに感染しても、たいていの人は数週間で治るもの。でも後から妙な症状が出て、ずっと長く続くケースもある。これがコロナ後遺症だ。患者は世界全体で少なくとも6500万人で感染者の1割前後とされ、あらゆる年齢の人がいる。

主な症状は倦怠感や息切れ、記憶や集中力の低下(ブレインフォグ)などで、その度合いは体調に左右される。まだ詳しいことは分かっておらず、残念ながら治療の選択肢は極めて限られている。

しかし、このところSNSなどでは、食生活の改善でコロナ後遺症の症状に対処できるという見解が紹介されている。では、どんな食事が推奨されているのか。また科学的根拠はあるのだろうか。

まずは「抗炎症食」というものがある。炎症は、体内の免疫細胞が出動して有害な病原体を排除しようとするプロセスで起きる。ただし、炎症も度が過ぎれば体に悪い。コロナ後遺症でよく見られる症状の多くは、炎症の過剰や慢性化が原因と考えられる。

そして食べ物には炎症を促すものと、逆に炎症を抑える(抗炎症)成分を含むものがある。

だから抗炎症食では炎症を促すような食べ物、つまり揚げ物、精製された炭水化物や砂糖、赤身の肉、加工肉、豚脂などを避ける。

推奨されるのは炎症を抑える食品で、例えばトマトやオリーブオイル、緑色の葉物野菜やナッツ、魚類、そしてイチゴなどの果物だ。これらの食品は抗酸化物質を豊富に含んでいる。

日頃の食生活でリスク減

抗炎症食の代表格は、イタリアなど地中海沿岸部の人々が日常的に食べている料理だ。果物や野菜、ナッツ、全粒粉の穀物、魚介類が中心で、植物性のオイルを用いる。いずれもビタミンやミネラル、食物繊維を豊富に含み、腸内で抗炎症作用を発揮する。

こうした地中海式食事を日頃からしていれば、新型コロナに感染時の重症化のリスクが減り、コロナ後遺症にも有効だろうと考えられている。

次に「低ヒスタミン食」というものがある。ヒスタミンは、外傷やアレルギー反応が出たときなどに細胞から分泌されて炎症を起こす。

このヒスタミンが適切に分解されず、過剰になると炎症がひどくなり、頭痛や下痢、倦怠感などの症状が出る可能性がある。

これらの症状はコロナ後遺症にも共通しており、一部の科学者は、コロナ後遺症に見られる慢性炎症は機能不全に陥った免疫細胞がヒスタミンを過剰に分泌することが原因ではないかと考えている。

低ヒスタミン食では、ヒスタミンを多く含むとされる食品の摂取量を数週間にわたって制限した後、段階的に元へ戻していき、ヒスタミンへの耐性を試す。対象となる食品にはアルコール類や発酵食品、乳製品、甲殻類、加工肉、小麦の胚芽やさまざまな果物と野菜が含まれる。

ただし、どの食品にヒスタミンが多く含まれるかについては、専門家の間でも意見が分かれている。しかも避けるべきとされる食材が多岐にわたるため、本気でやると栄養不足に陥る恐れがある。

実際に低ヒスタミン食でコロナ後遺症の症状が改善されたという報告も一部にあるが、信頼できる学術論文は今のところ発表されていない。つまり、エビデンスがない。しかもリスクは大きい。だから現時点では、低ヒスタミン食はコロナ後遺症の改善策として推奨されていない。

SNSをうのみにせず

もう1つは「植物由来食」だ。ビーガンやベジタリアンと同様、もっぱら植物性の食品だけを摂取する。

バランスの取れた植物由来食には、食物繊維や抗酸化物質、良質の脂肪酸や各種のビタミンとミネラルが含まれる。いずれも免疫機能に関わる複数の細胞にプラスの効果をもたらし、一定の抗ウイルス効果も期待できる。

例えば果物や野菜に多く含まれるポリフェノールは、ナチュラルキラー細胞(白血球に含まれ、常に体内をパトロールして異物や病原体を見つけ、攻撃して排除する細胞)の機能や活動を向上させると考えられている。

コロナ後遺症に苦しむ患者の中には、植物由来食で症状が改善したと言い、これを推奨する人もいる。ただし、植物由来食がコロナ後遺症の治療に役立つかどうかを確かめた臨床研究は、現時点で存在しない。

なお新型コロナの感染拡大前に行われた複数の研究では、植物由来食が倦怠感や頭痛、不安、鬱、筋肉痛などの改善に有効と示唆する論文もある。いずれもコロナ後遺症の症状に似ている。

以上をまとめると、現時点で低ヒスタミン食を推奨する知見はないが、地中海式の抗炎症食とバランスに配慮した植物由来食には、免疫機能にプラスの効果をもたらし、炎症の慢性化を防ぐような栄養素が含まれている。

もちろん、食生活を変えるだけでコロナ後遺症に勝てる保証はない。その効果については今後、さらなる研究が必要だ。食事で大切なのはバランス。SNSの情報をうのみにせず、まずはかかりつけ医に相談してみては。

The Conversation

Samuel J. White, Senior Lecturer in Genetic Immunology, Nottingham Trent University and Philippe B. Wilson, Professor of One Health, Nottingham Trent University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

20250311issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年3月11日号(3月4日発売)は「進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗」特集。ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニスト、29歳の「軌跡」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、フェンタニル巡る米の圧力に「断固対抗」=王外

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中