最新記事

インドネシア

中国資本の工場でストから暴動 中国人とインドネシア人が対立、死者2名ほか多数が負傷

2023年1月17日(火)20時20分
大塚智彦

中国企業を積極的に誘致

中スラウェシ州の北モロワリ県やモロワリ県では地元産業の活性化と労働者雇用促進を打ち出し、積極的に中国からの投資を促し、中国企業を誘致している。

今回労働争議が起きたGNIは2015年に着工され、2021年から精錬を開始。年間180万トンの精製能力を有している。

建設には中国から約27億ドルが投資されたといわれ、約1100人のインドネシア人労働者のほか、約1300人の外国人労働者が働いており、うち約1000人が中国人労働者という。

インドネシア政府は2014年から未加工の鉱石などの輸出禁止政策を打ち出したことから銅やニッケルなどの鉱石を精錬する工場建設プロジェクトが増え、中国企業・中国人労働者が北モロワリ県などに集中し始めた。このため2018年には地元にモロワリ空港も開港、中国からの渡航が楽になった。

モロワリ県では精錬工場の工業団地建設が計画されているほか、2019年以降EV用バッテリー素材工場の建設計画も進んでおり、中国からの投資総額は43億ドルに上っている。

警戒する民族間の憎悪助長

インドネシアでは触れることが忌避されるタブーとして「SARA」というものがあり政治・社会・文化の隅々に浸透している。「SARA」はインドネシア語の「民族、宗教、人種、階層」という言葉の頭文字を並べたもので、この「SARA」に関わる対立、差別は治安維持上からも危険とみなされることが多い。

今回のGNIでの労働争議から発展した騒乱はインドネシア人と中国人という「民族」の対立と労働者と会社経営側という「階層」の対立という要素が絡み合って起きた可能性がある。在インドネシア中国大使館も「卑劣な事件を非難する」とコメントをだして暴力行使への反対を表明した。

このような状況で国家警察長官が会見して「犠牲者の家族に哀悼の意」をわざわざ示したのは「SARA」に配慮して社会不安への影響を最小限に留めたいとの意向が反映しているといえる。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英CPI、11月は前年比+3.2%に鈍化 3月以来

ワールド

中国訪日客、11月は3.0%増に伸び大幅鈍化 長官

ビジネス

MUFG、印ノンバンクに40億ドル以上出資へ=関係

ビジネス

日経平均は反発、米雇用統計通過で安心感 AI関連も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中