中国資本の工場でストから暴動 中国人とインドネシア人が対立、死者2名ほか多数が負傷
中国企業を積極的に誘致
中スラウェシ州の北モロワリ県やモロワリ県では地元産業の活性化と労働者雇用促進を打ち出し、積極的に中国からの投資を促し、中国企業を誘致している。
今回労働争議が起きたGNIは2015年に着工され、2021年から精錬を開始。年間180万トンの精製能力を有している。
建設には中国から約27億ドルが投資されたといわれ、約1100人のインドネシア人労働者のほか、約1300人の外国人労働者が働いており、うち約1000人が中国人労働者という。
インドネシア政府は2014年から未加工の鉱石などの輸出禁止政策を打ち出したことから銅やニッケルなどの鉱石を精錬する工場建設プロジェクトが増え、中国企業・中国人労働者が北モロワリ県などに集中し始めた。このため2018年には地元にモロワリ空港も開港、中国からの渡航が楽になった。
モロワリ県では精錬工場の工業団地建設が計画されているほか、2019年以降EV用バッテリー素材工場の建設計画も進んでおり、中国からの投資総額は43億ドルに上っている。
警戒する民族間の憎悪助長
インドネシアでは触れることが忌避されるタブーとして「SARA」というものがあり政治・社会・文化の隅々に浸透している。「SARA」はインドネシア語の「民族、宗教、人種、階層」という言葉の頭文字を並べたもので、この「SARA」に関わる対立、差別は治安維持上からも危険とみなされることが多い。
今回のGNIでの労働争議から発展した騒乱はインドネシア人と中国人という「民族」の対立と労働者と会社経営側という「階層」の対立という要素が絡み合って起きた可能性がある。在インドネシア中国大使館も「卑劣な事件を非難する」とコメントをだして暴力行使への反対を表明した。
このような状況で国家警察長官が会見して「犠牲者の家族に哀悼の意」をわざわざ示したのは「SARA」に配慮して社会不安への影響を最小限に留めたいとの意向が反映しているといえる。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など