中国「ゼロコロナ」に終止符──壊滅的な被害へのシナリオ
Xi’s Risky Choice
だが、中国の新たなコロナ対策にはリスクも多い。80歳以上のワクチン接種率は依然として低いし、中国製のワクチンは一定の効果があるものの欧米のmRNAワクチンほど効き目がないことが分かっている。
元中国疾病対策予防センター副主任の馮子健(フォン・ツーチエン)は、これから起きる感染拡大で、人口の60%が感染すると推測しているという。だが、中国は先進国と比べて人口当たりの集中治療室の病床が少ない上に、感染拡大で医療施設は大幅な人手不足に陥る恐れがある。
中国は、うまくいけばベトナム、悪ければ香港と同じ道をたどる可能性がある。ベトナムは昨年、同じように厳格なコロナ対策を撤廃したが、その後の感染拡大による死亡率は比較的低く推移した。これに対して香港は封じ込めに失敗し、今年3月に世界一の死亡率を記録した。
中国の規模に換算すると、ベトナム並みの死亡率ならゼロコロナ解除後数カ月の死者は55万人程度になる。これに対して一部の専門家は、死者は100万〜200万人と見積もっている。そうなったとき、政府は統計の数字をいじることはできても、パンク状態に陥った病院の画像がネットに拡散するのを完全に抑え込むのは難しいだろう。
人民の声が政策を変えた
あくまで推測だが、筆者の考えるシナリオはこうだ。
今後しばらく中国の新型コロナ感染者は急増し、老人ホームで多くの死者が出る。少なくとも1つの大都市は香港並みの危機に見舞われ、ロックダウンが実施される。メディアはこの危機を伝えないが、ネットで画像が広がり、指導部の信頼性は再び低下する。
2023年の夏には、中国でも新型コロナは危機ではなく、エンデミック(局地的流行)となるが、24年には孤立した農村部で感染が大幅に広がり、都市部よりも著しく低い医療体制のために、壊滅的な被害がもたらされる──。
こうした事態に大衆はどう反応するのか。ゼロコロナ廃止にソーシャルメディアでは歓喜の声が上がっているが、ロックダウンの恐怖は簡単には消えないし、政府の決定はすぐに変わるのではないかという疑念も強く残っている。
北京などの都市ではまだ人通りはまばらだが、人々の新型コロナに対する恐怖心は低下しているように見える。また、人々は抗議運動が政府をゼロコロナ廃止に動かしたという手応えを感じており、政府が新たな感染対策を講じようとすれば、新たに激しい抗議運動が起こる可能性がある。
中国にとってゼロコロナ問題の終わりは、新たな問題の始まりとなったようだ。
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