最新記事

中国

中国「ゼロコロナ」に終止符──壊滅的な被害へのシナリオ

Xi’s Risky Choice

2022年12月13日(火)12時20分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)

だが、中国の新たなコロナ対策にはリスクも多い。80歳以上のワクチン接種率は依然として低いし、中国製のワクチンは一定の効果があるものの欧米のmRNAワクチンほど効き目がないことが分かっている。

元中国疾病対策予防センター副主任の馮子健(フォン・ツーチエン)は、これから起きる感染拡大で、人口の60%が感染すると推測しているという。だが、中国は先進国と比べて人口当たりの集中治療室の病床が少ない上に、感染拡大で医療施設は大幅な人手不足に陥る恐れがある。

中国は、うまくいけばベトナム、悪ければ香港と同じ道をたどる可能性がある。ベトナムは昨年、同じように厳格なコロナ対策を撤廃したが、その後の感染拡大による死亡率は比較的低く推移した。これに対して香港は封じ込めに失敗し、今年3月に世界一の死亡率を記録した。

中国の規模に換算すると、ベトナム並みの死亡率ならゼロコロナ解除後数カ月の死者は55万人程度になる。これに対して一部の専門家は、死者は100万〜200万人と見積もっている。そうなったとき、政府は統計の数字をいじることはできても、パンク状態に陥った病院の画像がネットに拡散するのを完全に抑え込むのは難しいだろう。

人民の声が政策を変えた

あくまで推測だが、筆者の考えるシナリオはこうだ。

今後しばらく中国の新型コロナ感染者は急増し、老人ホームで多くの死者が出る。少なくとも1つの大都市は香港並みの危機に見舞われ、ロックダウンが実施される。メディアはこの危機を伝えないが、ネットで画像が広がり、指導部の信頼性は再び低下する。

2023年の夏には、中国でも新型コロナは危機ではなく、エンデミック(局地的流行)となるが、24年には孤立した農村部で感染が大幅に広がり、都市部よりも著しく低い医療体制のために、壊滅的な被害がもたらされる──。

こうした事態に大衆はどう反応するのか。ゼロコロナ廃止にソーシャルメディアでは歓喜の声が上がっているが、ロックダウンの恐怖は簡単には消えないし、政府の決定はすぐに変わるのではないかという疑念も強く残っている。

北京などの都市ではまだ人通りはまばらだが、人々の新型コロナに対する恐怖心は低下しているように見える。また、人々は抗議運動が政府をゼロコロナ廃止に動かしたという手応えを感じており、政府が新たな感染対策を講じようとすれば、新たに激しい抗議運動が起こる可能性がある。

中国にとってゼロコロナ問題の終わりは、新たな問題の始まりとなったようだ。

From Foreign Policy Magazine

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中