最新記事

中国

もはやゼロコロナをやめても中国経済の凋落は不可避...習近平「Dの四重苦」とは?

Xi’s Fourfold Economic Woes

2022年12月14日(水)16時26分
ゾーイ・リウ(米外交問題評議会フェロー)

さらに20年までに93の政府系企業や金融機関から計1兆6800億元(約33兆円)の国有資産を基金に移した。こうした措置を講じたにもかかわらず、政府系研究機関である中国社会科学院の推定では、都市部における労働者の年金基金の残高は、政府の追加的な資金注入がなければ35年までにゼロになってしまうという。

かくしてDの四重苦が、3期目に突入した習を苦しめる。内政でも外交でも、経済の国有部門でも民間部門でも難問が山積だ。しかも中国経済の(そして中国と西側諸国との関係の)未来は、市場の力よりも習による内政の舵取りに大きく左右される。

むろん、まだ経済再生の道は残されている。習政権が内政をリセットして経済重視に舵を切り、以前のような「改革と開放」の路線に立ち戻り、外交面では挑発的な言動を控えて西側諸国との真摯な対話を復活させるならば、まだ中国経済が奈落の底に落ちるのを防ぎ、一段の孤立から守ることは可能だ。

しかし先の党大会での振る舞いを見る限り、習近平が悔い改めて路線を転換する気配はなかった。

11月半ばにインドネシアで開かれたG20首脳会議では初めて対面でジョー・バイデン米大統領と首脳会談を行い、中米関係の現状が「国際社会の期待に合致していない」との認識を示し、「両国関係を健全で安定した発展の軌道に戻す」ことに意欲を示したが、その本気度には疑問符がつく。

国外からの投資を呼び込む経済政策よりも強圧的な政治を優先する中国側の姿勢が変わらなければ、アメリカ側は中国批判を強めざるを得ない。そうなればアメリカ企業も、中国市場への関与を続けるかどうかの難しい判断を迫られる。

それでもアメリカは、中国を(少なくとも中国の人々と市場を)見限ってはいけない。1人の男と彼に忠誠を誓う男たちが絶大な権力を握り、国際的な緊張を高めているのは大いに問題だが、アメリカ経済とアメリカの消費者にとって中国との貿易が死活的に重要なのも事実。サービス部門を含めると、対中輸出に関わる企業で働くアメリカ人は約76万人もいる(2019年時点)。

双方の国内事情を考慮すると、米中関係は今後も一筋縄ではいかないだろう。

しかし関係改善の努力を放棄してはいけない。習政権の3期目はまだ始まったばかり。まだ今なら、アメリカは手を差し伸べて習の政策決定に一定の影響を及ぼすことができる。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシアがウクライナを大規模攻撃、3人死亡 各地で停

ワールド

中国、米国に核軍縮の責任果たすよう要求 米国防総省

ビジネス

三井住友トラスト、次期社長に大山氏 海外での資産運

ビジネス

台湾の11月輸出受注、39.5%増 21年4月以来
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中