最新記事

資源

他国名義と寝技でレアメタルを買いあさる中国に、対抗する世界の動き

2022年11月15日(火)12時13分
ブルース・シェン
ウユニ塩湖

ボリビアのウユニ塩湖のリチウム埋蔵量は世界最大規模 CLAUDIA MORALESーREUTERS

<地政学的にも中国製鉱物への依存は欧米の戦略的自律を脅かす。米国務省は豪州、カナダ、韓国、日本などが参加する「鉱物資源安全保障パートナーシップ」で政策を見直す>

今年初め、カナダのイノベーション科学産業相のシャンパーニュは、中国の国有企業、紫金鉱業集団によるカナダの鉱山会社ネオ・リチウムの買収について、同社の主な保有資産はアルゼンチンにあり、「事実上カナダの会社ではない」ためカナダ政府は介入しないという認識を示した。

中国の鉱山業者はカナダの鉱物を買いあさることができると喜んだかもしれない。しかし、10月28日にカナダ政府は、国内の重要鉱物部門における外国の国有企業の取引について、今後は「カナダに純利益が見込まれる場合のみ承認する」と表明。

カナダ政府は11月2日、中国の国有企業3社に、保有するカナダとアルゼンチンの重要鉱物資源企業への投資資産の売却を指示した。

欧米諸国は長年にわたり、重要な原材料が国家安全保障に及ぼす影響を軽視してきた。環境保護への転換が始まった時期とも重なり、膨大な埋蔵量の鉱物が中国の手に渡った。

2013年に中国のリチウム大手、天斉鋰業は中国国家開発銀行から融資を受け、アメリカの競合相手を抑えて最高品質のリチウム鉱床を有するオーストラリアのグリーンブッシュ鉱山を買収した。

18年にチリのリチウム最大手SQMの株式を24%取得。鉱業部門への民間投資を強化したいチリ政権の後押しがあった。

コンゴ民主共和国では、20年に中国企業が米鉱業大手のフリーポート・マクモランから世界最大級のコバルト鉱山2つを次々に買収。当時の米政権は反応しなかった。

このような不作為が、レアメタルの供給を中国に独占させたのだ。レアメタルは、気候変動対策に不可欠な電気自動車(EV)の電池に欠かせない。22年は世界の電池の74%を中国が生産する見込みだ。

ロシアによるウクライナ侵攻で、サプライチェーン寸断の危機は現実となった。半導体の製造に欠かせないネオンガスは世界の供給量の約半分をウクライナが担うが、その生産が停止した。

地政学的な対立を考えると、中国製鉱物への依存は商業的に好ましくなく、欧米の戦略的自律をも脅かす。

実際、各国は産業政策の見直しを迫られている。米国務省は6月、オーストラリア、カナダ、韓国、日本などが参加する「鉱物資源安全保障パートナーシップ」を発表した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「ガザは燃えている」、イスラエル軍が地上攻撃開始 

ビジネス

英雇用7カ月連続減、賃金伸び鈍化 失業率4.7%

ワールド

国連調査委、ガザのジェノサイド認定 イスラエル指導

ビジネス

25年全国基準地価は+1.5%、4年連続上昇 大都
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中