最新記事

ファクトチェック

「ウクライナが『汚い爆弾』を開発」と、ロシアが提示した「証拠写真」は本物?

Fact Check: Russia's Claim That Photo Shows 'Dirty Bomb' in Ukraine

2022年10月28日(金)17時35分
トム・ノートン

ロシア政府は、自国寄りの国々に対して、この主張を盛んに売り込んでいる。しかし、ロシア外務省のツイートに添付された写真と「汚い爆弾」の開発は無関係だ。

これらの写真は実のところ、ツイートの日付より10年以上も前に撮影された、さまざまな情報源を組み合わせたものだ。

スロベニア政府は10月24日付けのツイートで、写真の一部は、スロベニア放射性廃棄物管理機関(ARAO)が2010年に行ったプレゼンテーションで公開されたものだと述べている。ARAOは、スロベニア政府の非営利機関だ。

スロベニア政府はまた、核廃棄物のマークが書かれた袋に関して、こう説明した。「専門的な内容のプレゼンテーションにおいて、一般の人々や関心を持つ市民たちに説明するために使われた資料だ。袋の中に入っているのは、一般的に使用されている煙探知機だ」

この写真は以前にも、別の場所で使われたことがある。たとえば、2014年にモンテネグロで生態毒性研究センター(CETI:Centre for Eco-toxicological Research)がおこなったプレゼンテーションで使用されたほか、2016年には「メキシコ当局、放射性物質が搭載された盗難トラックを発見」と題された報道記事にも掲載された。それ以外にも、この写真は複数の場所で使われている。

ロシア国内にある研究施設で撮影されたもの

ほかの写真についても、その多くはジャーナリストのベンジャミン・ストリックがツイッターで指摘したように、ロシア国内やシベリアにある研究施設で撮影されたものだ。

またロシアメディアは、ウクライナが汚い爆弾を開発している証拠だとして別の写真も投稿している。だが、これらについても英調査報道グループ「べリングキャット」の創設者エリオット・ヒギンズが、その一部が確実に偽物であるということを暴いた。なかには、ロシアによるプロパガンダ映画の撮影現場で撮られた写真まであった。

いずれの場合も、ロシア側が「証拠」として提示した写真は、「ウクライナで汚い爆弾が開発されている」こととは関係がなく、当然ながら証拠にもなり得ない。ロシアが、自らの主張を裏づけようとして提示した証拠にまったく説得力がなかったことは、今回が初めてではない。

そこで、ファクトチェックの結果としては、「誤解を招く写真である」ということになる。ロシア外務省のツイートに添付されている写真は、「ウクライナ国内にある汚い爆弾の製造施設」を撮影したものではないし、ウクライナが汚い爆弾を製造している証拠でもない。

一部は、ロシア国内にある研究施設の写真だ。ほかの写真は、スロベニア政府が認めたように、スロベニア政府の非営利機関が2016年に行った放射性廃棄物管理についてのプレゼンテーションで公開されたものだ。うち1枚は、2010年以降にさまざまなウェブサイトで何度も使われている。
(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中