最新記事

サイエンス

ゴキブリが核戦争をも生き延びる理由

Not Even Cockroaches Would Survive Nuclear War: 'Urban Myth'

2022年10月13日(木)12時13分
ジェス・トンプソン

ゴキブリはなぜ放射能に強いのか(写真はイメージ)  Bulgac-iStock.

<80年前に絶滅したはずのゴキブリの種が再び発見され、その強靭な生命力が改めて注目を浴びている>

核戦争で地球の生命が全滅しても、ゴキブリは生き残るのか──専門家の議論が盛り上がっている。

きっかけは、絶滅したと思われていたゴキブリの種が再発見され、この丈夫な生き物の長寿と生存能力が改めて証明されたことだ。

最近、オーストラリアのロード・ハウ島で、最後の個体が目撃されたのが80年以上前だったキクイゴキブリの固有種が発見された。この羽のないゴキブリは、外の世界からこの島に持ち込まれたネズミのせいで絶滅したと思われていた。

地球上には約4600種のゴキブリが生息しており、その多くは家庭や畑の害虫として知られる。ゴキブリは地球上で最も頑丈な生物のひとつとされており、多くの映画で世界的な大災厄を唯一生き延びる種として描かれることもしばしばだ。

だが専門家によると、それは完全に正しいとはいえないようだ。

ロンドンの自然史博物館に所属する昆虫学研究者ポール・エッグルトンは「私が調べた限りでは、ゴキブリが核戦争の後も生き残るというのは都市伝説のようだ。だが、そこには少しだけの真実もある」と本誌に語った。

【動画】「絶滅」からも復活するゴキブリの生命力

昆虫は放射能に強い

「ゴキブリは哺乳類より放射能の影響を受けにくいが、それはたいていの昆虫に当てはまる。細胞は分裂するときに放射線のダメージを受けやすいが、昆虫は細胞周期が長い。哺乳類の細胞に比べて分裂の頻度が少ないので、突然に大量の放射能を浴びても影響が少ない」とエッグルトンは言う。

「脊椎動物の死骸がたくさんあって餌には困らないだろうし、ゴキブリは何でも食べる。丈夫で食いしん坊だ。ゴキブリは繁栄するだろうが、それは特に放射能に強いからではない。脊椎動物がすべて死に絶え、昆虫だけになったとしても、地球上の生命は同じように存続していくだろう」

したがって、ゴキブリに限らず多くの昆虫は核戦争後も生き残る可能性がある。

「一般的にいって、昆虫の電離放射線に対する感受性は中ぐらいのところにある」と、サウスカロライナ大学の生態学専門家ティモシー・ムソーは本誌に語った。「放射線を浴びても影響を受けにくく、短い時間で繁殖する生物が、このような大きな異変を最もうまく切り抜けるのではないか。だから、地下に生息していたり、影響を受けにくい性質をもつゴキブリなどの生物は生き延びるだろう。放射能の影響が少ない場所もあるかもしれない。地中深いところや海の底は、地上よりもはるかに影響が少ないだろう」

アルマゲドン(最終戦争)が起きても生き延びることができるという点では、ゴキブリは昆虫の中でそれほど特別な存在ではないかもしれない。ゴキブリとその仲間の昆虫は、絶滅を免れたロード・ハウ島のゴキブリを含めて、人間の行為によって滅びようとしている地球上の他の多くの生物よりも長く生きるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

チェイニー元米副大統領が死去、84歳 イラク侵攻主

ビジネス

リーブス英財務相、広範な増税示唆 緊縮財政は回避へ

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中