最新記事

クローン

絶滅危惧種の動物を救う? 倫理上の問題は? 中国でホッキョクオオカミのクローン誕生

2022年10月5日(水)19時00分
松岡由希子

絶滅危惧種ホッキョクオオカミのクローン「マヤ」(Sinogene Biotechnology Co.)

<中国のバイオベンチャー企業は、絶滅危惧種のホッキョクオオカミのクローン「マヤ」を公開した......>

中国のバイオベンチャー企業シノジーン(北京希諾谷生物科技)は2022年9月19日、誕生から100日が経過した世界初のホッキョクオオカミのクローン「マヤ」を公開した。

シノジーンはハルビン極地公園との共同研究により、2020年から2年かけてホッキョクオオカミのクローン作製に取り組んできた。ホッキョクオオカミは国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種レッドリストで絶滅のリスクが低い「低危険種(LC)」に分類されているが、産業開発や気候変動によって生息地が狭まり、餌不足となるおそれがあると懸念されている。

野生のホッキョクオオカミの皮膚の細胞から

中国メディア「環球時報」によると、「マヤ」のドナー細胞は、2006年にカナダからハルビン極地公園に移された野生のホッキョクオオカミのメスの皮膚試料から得たもので、卵母細胞はメス犬から採取された。卵母細胞から核を摘出し、除核卵母細胞の核周囲腔にドナー細胞を注入すると、体細胞核と除核卵母細胞が再構成され、新しい胚となる。

「マヤ」の代理出産には犬が選ばれた。犬は古代のオオカミと共通の遺伝的祖先を持つため、体細胞核移植(SCNT)によるクローンの作製が成功する可能性が高いからだ。クローン胚は137個作製され、うち85個が7頭のビーグルの子宮に移植。これら移植された胚から唯一完全に発育し、2022年6月10日、世界初のホッキョクオオカミのクローン「マヤ」が誕生した。

「マヤ」は現在、中国東部江蘇省徐州市のシノジーンの研究所で代理母のビーグルとともに生活しているが、今後、ハルビン極地公園に移され、一般に公開される見込みだ。

>>■■【写真・動画】どこまで進む? 絶滅危惧種のクローン誕生■■

これまでも絶滅危惧種のクローン誕生

絶滅危惧種のクローンが誕生した事例はこれまでにもみられる。2020年12月には米国の魚類野生生物局(FWS)らの共同研究においてクロアシイタチのクローンが生まれた。同年8月にはモウコノウマのクローンも米テキサス州で誕生している。

しかしながら、クローン技術はまだ初期的な段階にあり、技術面や倫理面で多くの課題が残されている。

世界動物保護協会(WAP)上級科学顧問の孫全輝氏は「環球時報」の取材で、クローン動物に関連する健康リスクはあるか、どのような条件下でクローン動物が認められるのか、クローンが生物多様性にどれくらい影響をもたらすのかといった具体的な問題を提起したうえで、「クローンは、絶滅の危機に瀕している野生動物や、野生動物がすでに絶滅して飼育下にある個体数が極めて限られている種のみに限定すべきだ」と主張している。

>>■■【写真・動画】どこまで進む? 絶滅危惧種のクローン誕生■■

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中