韓国「NOポケモンパン」始まるか? 工場での死亡事故巡り「血の付いたパン食べられるか」と不買運動
韓国のパン業界を牽引してきた企業SPC
今回問題になったパン工場を傘下にもつSPCグループは、韓国のパン業界のトップランナーとして知られる会社で、ベーカリーチェーンの「パリ・バゲット」は韓国内に約3500店舗、さらにフランス・パリ2店舗のほか、アメリカ、中国、インドネシアにも展開している韓国最大のベーカリーチェーンだ。このほか、ダンキンドーナツ、バスキンロビンス(日本のサーティーワンアイス)、シェイクシャックなどの海外ブランドの韓国ライセンシーとして事業を手掛けている。
また、コンビニやスーパーで販売する量販向けパンを生産するSPC三立(サンリプ)では、ポケモンパンをはじめ、デジモンパン、ケロロパン、ワンピースパンといった日本のアニメキャラクターのシールがおまけで入っているキャラクターパンをラインナップ。アニメキャラ以外にも、BTSがLINEフレンズとコラボしたキャラクターBT21のキャラクターパンなども手掛けている。
特にポケモンパンについては、過去6回にわたって販売されてきたが、2022年3月から7度目の発売が始まり、発売後40日で1000万個の売り上げを記録する大ヒットとなっている。
一方で、SPCグループに関してはトラブルが多いことも知られている。主要事業であるパリ・バゲットではフランチャイズ契約の更新のタイミングでリニューアル目的として数千万ウォンをオーナーに出させ、これに応じない店は閉店に追い込んでいるという。また、売上が高い商圏の店舗については契約更新時に移転を強要し、移転後にグループ内の他のチェーン店を出店させるなど、立場の弱い加盟店オーナーへの厳しい締め付けが問題となっている。
さらに、製品の製造工場での問題ももち上がっている。グループ内でダンキンドーナツの商品を製造するビアルコリアの安養(アンヤン)工場では、2021年に内部告発でドーナッツの生地に換気フードの油がしたたり落ちているなどの衛生面の問題が暴露され、当局の立ち入り調査で食品衛生法違反やHACCP不適合が発覚した。
また、大ヒットとなったポケモンパンでは、2022年3月の7度目の発売にあたってネット販売では860ウォンで売り出したものの、注文が殺到したのを受けて1,200ウォンへと1.4倍もの値上げをして非難を受けた。
こういった一連の問題があったところに、今回の平沢市にあるパン工場での女性労働者の死亡事故が発生した。この労災事故に関しても、SPCは2日後の17日になってようやくホ・ヨンイン会長名義で「会社の生産現場で尊い命が犠牲になったことに対して非常に残念に思います。会社は関係当局の調査に誠実に取り組み、事故原因の把握と後続措置に最善を尽くします」という声明を出すにとどまっている。一方で、SPCは16日に「パリバゲットのロンドン店をオープンし、英国市場に進出した」とプレスリリースを出しており、今回の事故から世間の目をそらす狙いがあったのではないかと批判が高まっている。
こうしたSPCの対応を受けて、ネットを中心にSPCグループ商品の不買運動キャンペーンが呼びかけられている。「血のついたパンを売るところ」「もともと問題が多かった会社」「労働者を使い捨てることで成長した企業」といったメッセージがネットにあふれている。
消費者だけではない。政界でも今回のことは問題になっており、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領も16日、遺憾の意を表し、「正確な事故経緯とともに、構造的な問題はなかったのか把握せよ」と指示している。
ただ、現実問題として不買運動が広がるかどうかというと、疑問視する向きも多い。「不買運動はパンを食べなと言うことだ」という指摘が出るほど、SPCグループのパン業界に占めるシェアが大き過ぎるからだ。事実、韓国では多くのハンバーガーチェーンのバンズはSPCグループで作られている。また不買運動はパリバゲットのフランチャイズオーナーや、今回の事故で亡くなった女性のようなSPCグループの労働者を苦しめることになるという指摘もある。
果たして「NOポケモンパン」といった不買運動は成功するのか、あるいはネットだけの一時の盛り上がりだけでSPCの企業体質が変わることなく終わるのか。今後の動きが注目される。