最新記事

ウクライナ

ロシア侵攻で、ウクライナに迫る「エイズ危機」

2022年9月5日(月)12時15分
シャノン・ケルマン(グローバルファンド米国委員会上級政策ディレクター)
ウクライナの援助団体

ウクライナ西部の町で救援物資の医薬品を仕分けする援助団体スタッフ SERHII HUDAKーREUTERS

<ウクライナのHIV感染者・エイズ患者は24万人。戦前の時点でその割合はヨーロッパ最悪の水準だった>

戦時下のウクライナでHIV感染者・エイズ患者が危機に直面している。

2021年の推計によると、ウクライナのHIV感染者・エイズ患者数は24万人。このうちの10万人が現在のロシアとの戦闘地域の居住者だ。

ウクライナは、肺炎患者の割合も極めて高い。肺炎はエイズと共通する症状も多く、エイズによる主要な死亡原因の1つでもある。

ウクライナのHIV感染者・エイズ患者と肺炎患者の割合は、開戦前の時点でヨーロッパ最悪の水準に達していた。

この2つの病気を治療する薬や、感染拡大を予防する薬はある。しかし、半年以上続いているロシアとの戦争により、ウクライナで暮らす患者たちの元に薬が届かなくなる危険が現実味を帯びている。

ロシア軍がウクライナに侵攻して以降、ウクライナ西部では、HIV感染者が用いる薬の需要が一挙に膨れ上がった。肺炎治療薬の需要も急増している。膨大な数の人が戦闘の激しい東部から西部に避難してきたためだ。

これまでは、ウクライナの非政府組織と国際援助団体の懸命な努力により、ウクライナ全域で患者たちに医療を届けることができている。

ニューヨーク・タイムズ紙でも取り上げられたウクライナの非政府組織「公衆衛生連合」は、ウクライナ戦争開始以降、15台の輸送車両により、HIV・エイズや肺炎の薬を含む340トン以上の物資を運搬してきた。

戦時下でこうした取り組みに危険が伴うことは言うまでもない。

ウクライナ保健省によると、7月24日の時点で869件の医療関連施設が攻撃されている。このうち123カ所の施設が完全に破壊されて、18人の医療関係者が死亡、50人以上が負傷したという。

このような危険があるなかでも、ウクライナ保健省や非政府組織は、ウクライナの人々が医療を受けられるようにするために奮闘している。

それを支援している国際援助団体の1つが「グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)」だ。感染症の検査・治療・予防、患者の支援に取り組む世界各国の非政府団体への資金援助を行っている団体である。

同ファンドのプログラムは、国ごとの委員会によって計画・監督される。その委員会には、地元の非政府組織、国際援助団体、政府機関、そしてその国で暮らす患者も参加する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米国に抗議 台湾への軍用品売却で

ワールド

バングラデシュ前首相に死刑判決、昨年のデモ鎮圧巡り

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機100機購入へ 意向書署名とゼ

ビジネス

オランダ中銀総裁、リスクは均衡 ECB金融政策は適
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中