ロシア侵攻で、ウクライナに迫る「エイズ危機」
ウクライナ西部の町で救援物資の医薬品を仕分けする援助団体スタッフ SERHII HUDAKーREUTERS
<ウクライナのHIV感染者・エイズ患者は24万人。戦前の時点でその割合はヨーロッパ最悪の水準だった>
戦時下のウクライナでHIV感染者・エイズ患者が危機に直面している。
2021年の推計によると、ウクライナのHIV感染者・エイズ患者数は24万人。このうちの10万人が現在のロシアとの戦闘地域の居住者だ。
ウクライナは、肺炎患者の割合も極めて高い。肺炎はエイズと共通する症状も多く、エイズによる主要な死亡原因の1つでもある。
ウクライナのHIV感染者・エイズ患者と肺炎患者の割合は、開戦前の時点でヨーロッパ最悪の水準に達していた。
この2つの病気を治療する薬や、感染拡大を予防する薬はある。しかし、半年以上続いているロシアとの戦争により、ウクライナで暮らす患者たちの元に薬が届かなくなる危険が現実味を帯びている。
ロシア軍がウクライナに侵攻して以降、ウクライナ西部では、HIV感染者が用いる薬の需要が一挙に膨れ上がった。肺炎治療薬の需要も急増している。膨大な数の人が戦闘の激しい東部から西部に避難してきたためだ。
これまでは、ウクライナの非政府組織と国際援助団体の懸命な努力により、ウクライナ全域で患者たちに医療を届けることができている。
ニューヨーク・タイムズ紙でも取り上げられたウクライナの非政府組織「公衆衛生連合」は、ウクライナ戦争開始以降、15台の輸送車両により、HIV・エイズや肺炎の薬を含む340トン以上の物資を運搬してきた。
戦時下でこうした取り組みに危険が伴うことは言うまでもない。
ウクライナ保健省によると、7月24日の時点で869件の医療関連施設が攻撃されている。このうち123カ所の施設が完全に破壊されて、18人の医療関係者が死亡、50人以上が負傷したという。
このような危険があるなかでも、ウクライナ保健省や非政府組織は、ウクライナの人々が医療を受けられるようにするために奮闘している。
それを支援している国際援助団体の1つが「グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)」だ。感染症の検査・治療・予防、患者の支援に取り組む世界各国の非政府団体への資金援助を行っている団体である。
同ファンドのプログラムは、国ごとの委員会によって計画・監督される。その委員会には、地元の非政府組織、国際援助団体、政府機関、そしてその国で暮らす患者も参加する。