最新記事

AI

「不誠実だ!」「芸術とは何か?」 米アート祭で1位の絵画、AIの自動生成だった

2022年9月9日(金)18時40分
青葉やまと

最優秀作品はAIが作成したものだった...... Discord/Jason Allen

<AIが人間のアーティストたちを圧倒。コンテストの最優秀作品は、画像作成AIのMidjourney(マインドジャーニー)による自動生成だった>

米コロラド州で開かれたコロラド・ステート・フェアで、厳粛な空気感を醸し出す美しい絵画が最優秀賞を獲得した。ところが受賞後、AIによる自動生成のアートだったことを制作者が明かし、物議を醸している。

同フェア期間中に開催されたアートコンテストにおいて、アーティストたちが腕を振るった応募作のなかから、『Theatre D'opera Spatial』と題された絵画が1等をさらった。作中では、劇場の大舞台のような豪華で厳かな空間にドレス姿の婦人たちが集い、大きく設けられた円形の開口部から差し込む神々しい逆光の前に佇んでいる。

受賞決定後、作者でありゲームデザイナーを本職とするジェイソン・アレン氏は、ソーシャルメディアの投稿を通じ、画像作成AIのMidjourneyによるアートだったことを明かした。出品したほかのアーティストには激怒する人々がある一方、AI作品の美しさと制作への努力を認める声もあるなど、議論を呼んでいる。

コロラド・ステート・フェアは毎年夏に開催されているお祭りごとであり、今年は9月5日までの11日間にわたり開催された。パレードや移動遊園地、そして早食い大会などの各種エンターテイメントに加え、コンサートやアートコンテストなど教育色の強い催しが開かれている。

美しいAIアートに、称賛と非難の嵐

作品への反応はさまざまだ。コロラドスプリングスの地方紙『デンバー・ガゼット』は、「アウト・ゼア・コロラド」は、アートコミュニティの人々などから作品に対し、「熱烈な支持と激しい抗議」の両方が殺到していると報じている。

アレン氏が優勝の事実とAIによる作品であったことをソーシャルメディア上で明かすと、投稿に対して8万6000以上の「いいね」が寄せられた。「創作力に富んでいる」「クリエイティブだ」など称賛が寄せられている。

一方、反感をもつ人も少なくないようだ。あるユーザーは「われわれは目の前で芸術性の死を目撃している」とコメントした。「あなたはアートから楽しさと生命を奪い去っているだけだ」と非難するユーザーもいるなど、辛辣なコメントも少なくない。

尽きない論争...AIアートは芸術作品なのか?

米テックメディアの「ヴァージ」は、あまりにも高いクオリティを叩き出したアレン氏の作品を前に、「『アートとは何か』をめぐる論争」にまで発展していると報じている。

AIアートとはいえ、優れた作品を生成するためには試行錯誤を必要とする。これの過程を作者の努力と捉えるのであれば、AIは単なるツールであり、その出力結果は作者自身の手による芸術作品だとみなすこともできそうだ。

AIを使用すること自体は、コンテストの規定に抵触しない。しかし、コンテストの応募者のなかには、特殊な制作の経緯を隠して出品した点で「不誠実だ」と憤る人々もいるようだ。AI作品だと仮に審査員が知っていたならば、受賞はあり得なかっただろうとする指摘もある。

一方、極めて自然に仕上がった作品の精度の高さと純粋な美しさにおいて、作品自体の価値を認める人々も多い。作品は「デジタルアート/デジタル加工写真」部門に出品されていたため、制作手法は極めてフェアだとの見方もあるようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ポーランド、最後のロシア総領事館閉鎖へ 鉄道爆破関

ビジネス

金融規制緩和、FRBバランスシート縮小につながる可

ワールド

サマーズ氏、オープンAI取締役辞任 エプスタイン元

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコ訪問 エルドアン大統領と会談
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中