アートとNFTめぐるダミアン・ハーストの実験 4800人が作品燃やし、NFTでの保有を選ぶ
現物が消滅したアートの所有権に、価値はあるのか
プロジェクトのウェブサイトによると、結果はほぼ拮抗したようだ。全1万点の作品のうち、物理的なアート作品との引き換えが申請された作品数は、5149点となっている。残りの4851点のオーナーたちはNFTを引き続き保有することを選んだ。
The Currency
— Damien Hirst (@hirst_official) July 27, 2022
The year is over boom that was quick! and we have all had to decide: NFT or physical? The final numbers are: 5,149 physicals and 4,851 NFTs (meaning I will have to burn 4,851 corresponding physical Tenders). pic.twitter.com/xCUJ0gviZ0
NFTで所有される作品については、プロジェクトの趣旨に則り、9月9日からハースト氏がロンドンの画廊で現物を順次焼却してゆく。実体を失ったNFTだけを保有し続けるというのは、いかにも不合理な選択のように思えるが、秘密はNFTの価値にあるようだ。
暗号資産関連のニュースを報じるクリプト・ニュースは、作品のNFTが発売された際、1点あたり2000ドル(現在のレートで約27万円)の価格設定だったと報じている。その後の個人間取引で価格は上昇し、現在では4倍の約8000ドル(約107万円)で譲渡されることもめずらしくなくなった。
NFTでの保持を選択したオーナーたちは、今後もこの価格が維持され上昇することを見込んで選択したとみられる。仮にそうなれば、もはやこの世に存在しない作品の所有権だけが高値で取引されるという、なんとも不可解な状況へと突入する。
ハースト氏はプロジェクトを、アートの通貨としての価値を問うものだと説明している。まさにそのねらい通り、興味深い結果を生んだようだ。
斬新な試みを続けてきた、イギリスで最もリッチなアーティスト
仕掛け人で現在57歳のハースト氏は、挑戦的な作品を多く発表し注目を集めてきた。1990年代から知名度を急速に高めてきた「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト」と呼ばれる芸術家たちのなかでも、代表的な存在だ。今年5月まで、東京・六本木の国立新美術館でも、企画展『ダミアン・ハースト 桜』が開催されていた。
氏の代表的な作品に、「ナチュラル・ヒストリー(博物学)」と呼ばれるシリーズがある。動物の死体をホルマリン漬けにして展示したもので、生と死をテーマのひとつに据えるハースト氏らしいプロジェクトだ。
英ガーディアン紙によると氏は2020年、純資産3億1500万ポンド(約511億円)を保有し、イギリスで最も裕福なアーティストとなっている。
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