最新記事

米露国境

「アラスカはロシアの領土」──米ロの軍事衝突招く危険なゲーム

Putin Ally Warns U.S. Russia Could Start Military Fight Over Alaska

2022年7月7日(木)17時51分
ゾーエ・ストロズースキ

ベーリング海峡の中央にある米露国境の2つの島は5キロも離れていない Juanmonino-iStock.

<150年も前にアメリカに売却したアラスカを、「制裁への報復」として取り戻せと危険な脅しをプーチン周辺が口にし始めた>

ロシア下院のビャチェスラフ・ボロージン議長は6日、ロシアはアメリカからアラスカを取り返す権利があるとの主旨の発言をした。ボロージンはウラジーミル・プーチン大統領の側近だ。

AP通信によればボロージンは、ロシア高官らとの会議の席で「彼ら(米連邦議会)がロシアの在外資産を横取りしようとするなら、ロシアが返還を求めるべきものもあることを認識すべきだ」と述べたという。

ロシアがウクライナに侵攻し、西側諸国から前例のない厳しい制裁を科されて以降、アメリカとロシアの間の緊張は高まっている。ウクライナ向けの武器を運ぶアメリカやNATOの車両への直接攻撃をちらつかせたり、ウクライナ国外にも戦線を拡大させる気配を見せたこともある。今回のボロディンの発言は、制裁への報復としてアラスカを標的にする可能性を示唆したものだが、そんなことをすれば米ロの軍事衝突も招きかねない。

米連邦議会図書館によれば、アラスカはかつてロシアの一部だったが、1867年3月30日にアメリカが720万ドルで買収した。当時のウィリアム・シューワード国務長官にちなんで「シューワードの愚かな投資」だとか「シューワードの冷蔵庫」と揶揄されたが、1896年にアラスカでゴールドラッシュが始まると批判の声は吹き飛んだ。アラスカは準州を経て、1959年に正式なアメリカの州となった(ハワイと同年)。

国境の島と島の距離は数キロ

ロシアがアラスカを手放してから100年以上経つが、アラスカとロシアが非常に近い距離にあるのは間違いない。アラスカ州の公式ウェブサイトによれば、ロシア領のラトマノフ島(ビッグダイオミード島)とアメリカ領のリトルダイオミード島の間は5キロも離れていない。アラスカ本土とロシア本土との距離も、最も近いところでは80数キロだ。

アラスカをアメリカから取り戻せと発言しているのはボロージンだけではない。下院議員のオレグ・マトベイチェフはロシア国営テレビに対し、ロシアは「アメリカなどに占有されてきた、本来ロシアの所有であるすべてのものについて、ロシア帝国のものもソ連のものも現ロシアのものも含めて」返還を求めるべきだと語った。

アラスカもその中に含まれるのかと問われ、マトベイチェフはそうだと答えた。

この発言を受けてアラスカのマイク・ダンリービー知事はこうツイートした。「いちいちコメントをする気にもならないが、せいぜい頑張ることだ。アラスカの武装した何十万人もの州民や軍人の(アラスカの帰属に関する)見方は違うはずだ」

本誌はロシア外務省とアメリカ国防総省、ロシア国会を通じてボロディンにコメントを求めたが回答は得られていない。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪4月就業者数は予想以上に増加、失業率4.1%に上

ビジネス

米バークシャー、保険大手チャブ株を67億2000万

ワールド

中国、核兵器を増強しつつ先制不使用協議を要求 米が

ワールド

ブラジル洪水の影響、数週間続く可能性 政府は支援金
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中