最新記事

経済危機

思いつきで政策連発して経済破綻──大統領一族がやりたい放題のスリランカ

INTO MORE TURBULENT WATERS

2022年5月13日(金)17時12分
スミット・ガングリー(インディアナ大学教授)

一方、ラジャパクサ兄弟の政策は、ただでさえおぼつかないスリランカ経済に大きなダメージを与えてきた。

ラジャパクサ大統領は21年、大統領選での公約どおり有機農業への全面移行を発表し、化学肥料や農薬の使用を禁止した。準備期間もなく導入された措置に国内の農業は大混乱。主要作物の生産高は急減し、食料価格は高騰している。

慌てたラジャパクサ政権は、農家の収入保証をする一方で、減税にも踏み切ったため、財政は一段と悪化した。さらにコロナ禍で経済の柱である観光業が大打撃を受けたほか、海外にいる出稼ぎ労働者からの送金が激減したため、スリランカ財政は一段と厳しさを増した。

スリランカは多様な民族や政治グループがあることで知られるが、ラジャパクサ大統領の退任を求める点では一致しており、全国各地で街頭デモが実施されてきた。これを受け、4月3日までにほとんどの閣僚が辞職したが、肝心の大統領と首相は頑として権力の座に居座っている(2人の弟のバシル・ラジャパクサ財務相は辞職した)。

その背景には軍の支持があるようだ。理由は2つある。第1に、そもそもスリランカでは、軍は強力だが文民政権を尊重しており、政権を支える立場に徹している。これは一部の近隣諸国とは大きな違いだ。

第2に、ラジャパクサ兄弟は軍と関係が深い。05年にマヒンダ(現首相)が大統領に就任したとき、弟のゴタバヤ(現大統領)を国防次官にした。ちょうど内戦が収束に向かっていた時期だ。兄弟は、このとき軍が犯したとされる人権侵害を見逃してやり、さらに国際的な調査にもストップをかけたため、軍は大きな恩義を感じているらしい。

それでもラジャパクサ兄弟は、現在の危機を突破する方法を探している。その一環としてインドとの関係修復にも励んでいる。中国に対抗心を燃やすインドとしては、スリランカへの影響力を拡大したい思いもあるのだろう。4月中旬、インド政府が新たに20億ドル以上の金融支援を行う方針であることが明らかになった。

その一方で、中国は現在のスリランカの経済危機には、積極的に救済の手を差し伸べていないようだ。これは上海などで急拡大する新型コロナへの対応に忙しいのと、かねてからのサプライチェーン危機で、中国経済も苦しい立場にあるからかもしれない。スリランカの金融当局としても、これ以上中国への依存を拡大したくはないようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中