最新記事

ウクライナ侵攻

戦時徴用のためロシアは社会主義に逆戻り?

Russian State TV Analyst Urges 'Military Socialism' Amid Ukraine Invasion

2022年5月9日(月)15時04分
ザンダー・ランデン

戦勝記念日の軍事パレードのリハーサルでモスクワ上空を飛ぶスホイ35戦闘機(右)とツボレフ95戦略爆撃機 Maxim Shemetov-REUTERS

<市場経済のままではウクライナ侵攻の継続は困難と、土地や工場などすべての「戦略物資」を政府の管理下におく「軍事社会主義」に移行すべきと、国営放送で専門家が提言>

ロシアの軍事アナリスト、コンスタンチン・シブコフは5月7日、ロシアの現在の体制はウクライナへの軍事侵攻を支えるには不十分だと論じ、「軍事社会主義」とでもいうべき新制度に移行すべきだと国営放送で主張した。

「現在の市場経済体制は、現在のような状況下で軍隊と国全体のニーズを満たすには不適当である。われわれは別の体制に移行する必要がある。私はそれを仮に『軍事社会主義』と呼ぶ」と、シブコフは視聴率が高いロシア国営放送で語った。「土地、工場、その他すべての戦略的資源は例外なく、政府の管理下に置き、中央が管理する計画に従って開発されなければならない」

シブコフはまた、戦争中にロシア軍が使用する砲弾やミサイルを「生産する必要がある」と指摘。「早急に、産業を戦時体制に組み込まなければならない」と述べた。

最低でも1日5万発の砲弾が必要だが足りない、と話すシブコフ


シブコフの発言の動画は、ロシアのメディアを専門とする米ニュースサイト「デイリービースト」のコラムニスト、ジュリア・デービスがツイッターに投稿した。7日の夕方時点で再生回数は25万回近くに達している。

デービスは動画をこう紹介している。「ロシアの国営テレビでは、ロシアの現在の経済体制は軍隊のニーズを満たすのに適していないという軍事専門家による懸念が紹介されている。ある軍事専門家は、政府がすべてを管理する『軍事社会主義』と『戦時経済』への移行が急務だと唱えている」

大規模動員への布石?

シブコフの発言は、ロシアがウクライナ侵攻に何億ドルも費やしていることを受けてのもの。本誌に提供されたある分析によると、ロシアが軍事攻勢を維持するためのコストは、1日あたり約9億ドルに及ぶ。

軍事ニュースに特化した米メディア「SOFREP」の編集長ショーン・スプーンツによれば、これには武器や破損した装備の修理、兵士への給与といった費用が含まれる。

「軍事社会主義」を求めるシブコフの発言が放映されたのは、5月9日の戦勝記念日(ナチスドイツに対する勝利を祝うロシアの恒例行事)の2日前のこと。記念日当日には、ウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」から戦争に格上げし、大規模な兵力動員を発表するのではないか、との憶測も流れている。

ロシアはウクライナに対する公式の宣戦布告を否定しているが、ロシア政府が「戦時動員の専門家」を募集していたのは本誌も報じた通りだ。

モスクワにある経済政策研究所の研究員セルゲイ・ジャボロンコフは7日、米系ラジオ局自由欧州放送で、プーチンが大規模な動員を発表すれば、ロシア国民の支持を失うことになりかねないと述べた。

「ロシア国内におけるウクライナ侵攻への熱意は急激に低下するだろう」と、ジャボロンコフは語った。「戦争が面白いコンピュータゲームのようなものであるうちはいいが、多くのロシア人が直接影響を受けるとなれば、話は別だ」

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中