どんな手を使っても「勝利」したいプーチンが、ドンバスに執着する理由
Donbas Could Go Bad, Too
地形の差はどう影響?
だがドンバスで敗色が濃くなれば、プーチンは化学兵器や戦術核兵器を使用してゼレンスキーと西側同盟国に衝撃を与え、大惨事に至る前に停戦に持ち込むという無謀な行動に出る可能性がある(この手法はロシアの軍事ドクトリンで「エスカレーション抑止のためのエスカレーション」戦略と呼ばれる)。
欧米諸国がプーチンを刺激しないよう紛争への直接介入を避けているのは、このためだ。
ドンバスでの戦いの新たな段階を、どちらが有利な形で迎えるのか。ウクライナ情勢の今後を占う上で、この問いは大きな意味を持つ。
地形については、ロシア側に有利な面もいくつかある。ドンバスはキーウ周辺と違って平地が多く、森林や市街地が少ないため、ウクライナ軍がロシア軍の戦車部隊を待ち伏せできる地点は限られる。
ロシア国境により近いため、ロシア軍の補給路も短くなる。ウクライナ軍はロシア軍の補給路を攻撃し、食料や燃料、兵器の不足を引き起こして戦果を上げてきた。
だが、ドンバスではその戦術が使えない。しかもロシア軍は、戦いの主導権を握っているメリットを生かし、前線に送っていた兵士をドンバスに再配備し、数的優位を強化している。
それでも、この優位性が勝敗を決めるとは限らない。バイデン米政権と一部の欧州諸国はウクライナ軍に対し、対戦車ミサイルや地対空ミサイルをはじめ、戦車や装甲車、大砲、ヘリといった大型兵器の供与を迅速に進めている。
バイデンらは戦闘の第1段階で、プーチンがウクライナへの軍事支援をNATOの参戦と見なすことによって化学兵器や核兵器を使用する可能性を懸念し、大型兵器の供与を見送っていた。
しかしロシアが軍備を増強し、ウクライナの市民を攻撃し続けていることを憂慮する西側諸国は、より大きなリスクを受け入れるよう方向転換した。ウクライナ軍のゲリラ攻撃能力だけでなく、通常戦闘能力も向上させる支援を強化している。
ロシア軍の不安要因はもう1つある。兵士の疲弊だ。ドンバスでの攻勢が本格化していない理由は、ここにある。