最新記事

ウクライナ

どんな手を使っても「勝利」したいプーチンが、ドンバスに執着する理由

Donbas Could Go Bad, Too

2022年4月27日(水)17時25分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

地形の差はどう影響?

だがドンバスで敗色が濃くなれば、プーチンは化学兵器や戦術核兵器を使用してゼレンスキーと西側同盟国に衝撃を与え、大惨事に至る前に停戦に持ち込むという無謀な行動に出る可能性がある(この手法はロシアの軍事ドクトリンで「エスカレーション抑止のためのエスカレーション」戦略と呼ばれる)。

欧米諸国がプーチンを刺激しないよう紛争への直接介入を避けているのは、このためだ。

ドンバスでの戦いの新たな段階を、どちらが有利な形で迎えるのか。ウクライナ情勢の今後を占う上で、この問いは大きな意味を持つ。

地形については、ロシア側に有利な面もいくつかある。ドンバスはキーウ周辺と違って平地が多く、森林や市街地が少ないため、ウクライナ軍がロシア軍の戦車部隊を待ち伏せできる地点は限られる。

ロシア国境により近いため、ロシア軍の補給路も短くなる。ウクライナ軍はロシア軍の補給路を攻撃し、食料や燃料、兵器の不足を引き起こして戦果を上げてきた。

だが、ドンバスではその戦術が使えない。しかもロシア軍は、戦いの主導権を握っているメリットを生かし、前線に送っていた兵士をドンバスに再配備し、数的優位を強化している。

それでも、この優位性が勝敗を決めるとは限らない。バイデン米政権と一部の欧州諸国はウクライナ軍に対し、対戦車ミサイルや地対空ミサイルをはじめ、戦車や装甲車、大砲、ヘリといった大型兵器の供与を迅速に進めている。

NW_DPS_03-20220427.jpg

ルハンスク地域でミサイル攻撃を受けたウクライナ軍の戦車(4月16日)MARKO DJURICA-REUTERS

バイデンらは戦闘の第1段階で、プーチンがウクライナへの軍事支援をNATOの参戦と見なすことによって化学兵器や核兵器を使用する可能性を懸念し、大型兵器の供与を見送っていた。

しかしロシアが軍備を増強し、ウクライナの市民を攻撃し続けていることを憂慮する西側諸国は、より大きなリスクを受け入れるよう方向転換した。ウクライナ軍のゲリラ攻撃能力だけでなく、通常戦闘能力も向上させる支援を強化している。

ロシア軍の不安要因はもう1つある。兵士の疲弊だ。ドンバスでの攻勢が本格化していない理由は、ここにある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電

ワールド

中国、海南島で自由貿易実験開始 中堅国並み1130

ワールド

米主要産油3州、第4四半期の石油・ガス生産量は横ば

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中