ゲームと現実の奇妙な類似...コロナ禍の世界に『デス・ストランディング』が教えること
The Real-life Lessons of “Death Stranding”
だが主人公が各地の端末を通信ネットワークにつなぐと、大きなデータのやりとりが可能になる。すると道具や機器の設計図が手に入るようになり、シェルターや発電機、橋といった必需品を造れるようになるのだ。
町から町へ渡り歩く主人公の旅は苦難に満ちているが、これは現実世界で高速通信を使えない人々の抱える問題と相通じるものがある。
『デス・ストランディング』の世界では、悪路で荷物を運ぶための工夫が常に求められるし、有毒な雨やモンスターや過激派に遭遇しないよう常に気を配らなければならない。ネットワークにつながっていない地域では道具や設備を作れないため旅はさらに困難になり、いかに早く次の端末にたどり着いてネットワークにつながるかが課題となる。
つながることで利益が得られる点は現実世界の高速通信も同じだ。例えばノースカロライナ州の小さな町では、自治体が運営する高速通信網のおかげで住民はリモートで働く職を得ることができ、ネットは人々の暮らしの安全性向上にも一役買っている。
ところが通信大手は、自治体が新たな通信ネットワークを自ら運営することに反対するロビー活動を展開。そのせいでこの町の住民たちもネットを使えない時期があった。
ネットの有無が生み出す不平等
ネットが使えなければ、もともと存在するリソースや機会の不平等はさらにひどくなる。例えば黒人やヒスパニックが多く住む地域で自宅からインターネットを使える住民の割合は、収入格差を勘案しても白人が多い地域より低い。
アメリカ先住民が暮らす居留地では特に、デジタル格差が深刻な問題となっている。自宅に固定のインターネット回線を引いている住民は全体の49%にすぎない。そうでなくとも彼らは社会の周縁に追いやられ、財務記録に基づく信用履歴の判定や住宅購入、ネットワークインフラの整備といった面でも差別に苦しんできた。
さて、『デス・ストランディング』の世界に存在する通信ネットワークは連邦政府が運営するものだけだ。それを拡張する使命を担うのは主人公(つまりプレーヤー)1人であり、こうした状況では利潤よりも公共の利益を優先することが可能となる。現実世界で自治体が運営している通信網にも同じことが言える。
だがその恩恵に浴しているのは、アメリカ人のほんの一部にすぎない。残る大多数の人々にとっては、少数の大手民間企業による寡占状態が続く高速通信サービス以外の選択肢はない。この市場における競争は非常に限定的で、企業が個人ユーザーよりずっと強い立場に立っている。