最新記事

ウクライナ

ロシア兵は突如、11歳の少女の「あごに発砲した」...住民が語るマリウポリの非道

A REPORT FROM HELL

2022年4月6日(水)11時55分
伊藤めぐみ(ライター)

220412P40_RPO_02.jpg

現在はオデーサにいるカテリーナ COURTESY OF KATERYNA YERSKA

マリウポリでのロシア兵の様子についても話してくれた。

「マリウポリではロシア兵は嘘の情報を流して回っていた。スピーカーを使って、『ウクライナ側にはもう行けない。ウクライナ政府はもうあなたたちのことを受け入れない』と言ってね。ロシア側に行くしかないと住民に思わせようとしていた」

カテリーナは女の子たちと別れ、元の車の運転手とザポリッジャに向かった。彼女自身も移動中にチェチェンの部隊に止められ、ザポリッジャに行くのだと伝えると、「ザポリッジャはもう包囲されていて入れない」と嘘を教えられたという。実際はウクライナ政府のコントロール下にあり、多くの避難民を受け入れている。

アジア系の顔立ちをしたロシア兵を見たという話もしてくれた。スラブ系のロシア人にとってもこの戦争は突然だったのだろうが、ロシア政府はよりウクライナの問題になじみが薄い人々を投入しているのかもしれない。

ロシア軍はマリウポリの住民6000人をロシア側に強制連行したともいわれている。

「私の友達の両親がロシアに連れて行かれた。書類にサインさせられて3、4年とどまるって約束させられたそう」

ロシア軍は連行した人々の思想チェックをし、ロシア寄りの人とそうでない人に分け、そうでない人は外部と接触できない所に隔離している、という未確認情報もある。

3月20日にロシア政府はマリウポリの降伏を提案し、ウクライナ政府はこれを拒否した。マリウポリの人たちはこの事態をどう感じているのか。カテリーナは説明する。

「私はその時にはもう脱出していたから分からない。けれど、みんな降伏したからって安全になるとは思っていなかった。街に残った男性たちは、家族へのお別れのメッセージを録画していた。降伏するより死ぬつもりだと」

住民たちはもともと反ロシアではなかった

住民たちは2月の侵攻が始まる前まで、反ロシア政府感情が強かったわけではない。マリウポリのすぐ近くにはロシア編入を求めるドネツク共和国があり、マリウポリ自体も同じドンバス地域にある。既に戦争は隣で起き、毎日、砲撃の音が聞こえていたにもかかわらず、統治者が誰かに住民は関心がなかったという。

「マリウポリの人たちは皆政治には関心がなかった。ただ平和な暮らしがしたいと思っていただけ。彼らにとっては、政治的にロシアかウクライナのどちらかを選ぶという問題ではなかった」

しかしこの侵攻が人々の考えを一変させた。

「中立的な立場だった人まで侵攻後は劇的に変わった。ロシアへの感情とかそんな話じゃない。平和的な人たちも殺して妊婦さえ逃げられないのだから。これは戦争だから」

この決死の覚悟に、私はどう反応したらいいのか分からない。住民に死んでほしくはない。住民には戦いたいという思いだけでなく、降伏しても殺されるだろうという想像、予測がある。国際社会にできることはもっとあるはずだ。ウクライナの人々に全てを背負わせるのではなく。

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ協議は「生産的」、ウィットコフ米特使が評

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、今後数カ月の金利据え置き

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、追加利上げへ慎重に時機探る

ワールド

マクロン氏「プーチン氏と対話必要」、用意あるとロ大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中